米国IT企業の営業方法の進化(1)〜カンファレンス、コールセンターからWebセミナーへ

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-11-06 10:15:38

国土の広い米国

米国は、ご存知の通り日本に比べてはるかに国土が広い。50州もあるのに、カリフォルニア州だけで日本の面積に匹敵するほどの広さだ。米国西海岸には、サンフランシスコとロサンゼルスという2つの大きな都市があることぐらいは、誰もが知っていると思う。私はサンフランシスコ郊外に住むが、たまに、日本の方から、ロサンゼルスを訪問する予定があるので、都合がつけば会わないかとご連絡をいただくことがある。おそらく、ロサンゼルスとサンフランシスコとの距離感が全くつかめていないためだと思うが、実際には500キロも離れている。東京〜大阪間ぐらいの距離はあるのだ。米国人が、東京出張時に、大阪の人に対して東京で会えないか、と言うのと同じである。ただし、米国は車社会で、ハイウエイはどこまでもまっすぐである。しかも、法定速度を厳守した安全運転でも毎時70マイル(110Km/h以上。実際には120-130Km/hぐらい。)で走れるので、5-6時間もあれば行ける。そのため、週末にロサンゼルス方面へ小旅行する人は少なくない。私自身、先日も、日本からの出張者に会いに、ロサンゼルスまで走った。

実際に私は、サニーベールという町に住んでいて、近隣の大都市という観点からは、サンフランシスコより人口の多いサンノゼの方がはるかに近い。しかし、知名度とわかりやすさの観点から、日本の方には、サンノゼというよりも、サンフランシスコ郊外だとご説明している。しかも、偶然にも住所の一部に「サンフランシスコ」の文字が入っているため、郊外がすっとんで、サンフランシスコ在住だと思われているようだ。が、実際には、サンフランシスコから70キロ近く南の町なのである。もっとも日本から見れば誤差の範囲内である。例えば、東京ディズニーランドは、千葉県浦安市にあるが、浦安ディズニーランドというより、東京と言った方がイメージがわくし、成田空港が東京駅から70キロぐらいの距離があるが、東京国際空港と呼んだ方が、国際的にはわかりやすいのと同じようなものだ。そういえば、同じZDNetのブロガーである飯田さんとお会いしたときにも、「サンフランシスコ在住の徳田さん」と紹介していただいた。

そもそも、シリコンバレーと言うのは、北のサンフランシスコから南のサンノゼまで、80キロぐらい離れた非常に広い範囲を指す。ただ、ちょっと困ったことがあって、日本の方が実際にシリコンバレーに来られたときに、サンフランシスコ市内で会いましょうとおっしゃることが多いのである。サンフランシスコ市内で会った方が、お会いしてみて、実はサンノゼでお会いしたほうがお互いに都合がよかったということもあった。とは言っても、米国では遠くまで車を飛ばして行くのは当たり前の世界で、サンフランシスコは1時間ちょっとで行けるので、もちろんサンフランシスコをご指定いただいて構いません。(これに関しては笑い話があって、ある方から、「今、ちょうどサンフランシスコに来ている。時間があるので、これからちょっと会わないか?すぐ近くだろう?」、と携帯に電話をいただいたことがあった。そのときは、実は米国本土から遠く離れた場所にいて、さすがにお会いできなかったのであるが。)

米国の巨大な市場と国土を対象とする営業の課題

ところで、IT系のビジネスでは、ハードやソフトという形で提供できるため、物として拡販が可能であり、ベンチャー企業と言っても、売上を拡大するために、全米マーケットを対象にしている。しかも、全米で見ると人口が3億人を突破したそうで、巨大な市場が存在するのである。2050年には4億人を超えるとも言われており、既に人口がピークを過ぎて、2050年には1億人近くまで縮小してしまう日本に比べて、国内市場は非常に大きく、成長余力が大きい。とはいえ、小さなベンチャー企業が全国展開で営業を行うというのは、並大抵のことでない。前述のように、米国は、国土が広い。ローカルビジネスになればなるだけ、州ごと、同じ州内でも地域が違えば商圏が異なる。東海岸と西海岸で比べると、同じ国なのに時差が3時間もあるのだ。クライアント先に、その都度、出張していれば、飛行機代もホテル代も馬鹿にならないだろう。そのため、自分たちのソリューションをリセールしてくれるような、システムインテグレーターやコンサルタントなど、ローカルビジネスを展開するIT関連企業とのアライアンス戦略が非常に重要になってくる。

クライアント企業は、大都市に多く存在するが、東海岸のボストン、NY、ワシントン周辺、中部のシカゴ周辺や、西海岸でも、北のシアトル周辺や、カリフォルニア州も、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴなど。南部はヒューストン、ダラスのあるテキサス州、フロリダ州など。もちろん大都市だけではなく、地方にも全米企業の本社が広がっている。非常に広範囲に広がっている。

IT企業もシリコンバレーの集積が有名だが、実は全米に広がっている。全米のベンチャーキャピタル投資が年間2兆円を超えており、その3分の1はシリコンバレー向けであるため、シリコンバレーにITベンダーが集積している。しかし、全てがここでまかなわれているわけではないのである。半導体やハードウエア、ソフトでは、ミドルウエアとかネットワーク関連などになるとシリコンバレーは確かに強い。しかし、業務アプリケーションやシステムインテグレーション、コンサルティングなど、クライアントに近いような上位層で、かつ、業務知識やクライアントとの直接の対話が必要な領域になると、ベンダーやインテグレーターは全米に広がっているのである。特に、最近ブームとなっているコンプライアンス関連のツールになると、シリコンバレー以外で、マサチューセッツから、NY、ワシントン、バージニア、ノースカロライナ周辺までの東海岸の企業やテキサスの企業が強い。

そんな感じで、クライアントも、ベンダーも、インテグレーターも全米に広がっているというのが米国なのであり、距離をカバーすることが必要となる。

遠距離をカバーしてきたるカンファレンスと電話営業

そんな状況であるため、効率的に人を集める方法としてカンファレンスが採用されている。あちこちの大都市で、カンファレンスが盛んで、ベンダーもユーザーも積極的に参加している。例えば、少し前までは、コムデックスなどラスベガスのカンファレンスが非常に有名で、エンターテインメンっ性を加えながら、関係者が全米から一同に集まった。サンフランシスコでも盛んである。シリコンバレーのお膝元であるし、国際観光都市でもあることから、さまざまな種類のカンファレンスが開催されてきた。また、クライアントが多い大都市圏で、プライベートセミナーなどを開いたりもする。しかし、米国の企業は大企業であっても、本社は大都市だけでなく全米に散らばっており、なかなか全てのクライアント候補を集めるのは大変である。日本のように、東京都心に大企業の本社機能が集中しているのとは訳が違うのである。かつては、有望顧客のキーパーソンには、カンファレンスの招待券、航空チケット、ホテル、各種ディナーパーティーやゴルフなどエンターテインメントを無料でセットにして、カンファレンスに参加してもらおうとしてきた。しかし、これではコストが相当かかるし、ベンチャー企業にはしんどい。大手企業でも、かなり厳しくなっているようである。とはいえ、営業マンが一社一社企業を飛び込み営業して回るわけにはいかないのである。そのため米国では、電話営業が盛んとなった。コールセンターのシステムが非常に進んでいる所以である。ある程度確度が高まったら、営業マンが実際に企業を訪問して、キーパーソンと面談することで契約を獲得するのである。

インターネットが普及するにつれ、電子メールを通じてのアプローチも進んでいる。個人情報がどこからか漏れていて、とにかく営業の電話やメールが多いのである。しかし、電話では相手の顔が見えないことから不安感があるし、言葉で伝えられるものには限界がある。更に困ったことに、移民の国である米国では、英語の得意でない相手もいて、電話だけで十分に説得できる相手だけではないのである。しかし、メールや電話では、うるさい営業だと、それだけで拒絶反応を示されてしまう問題から脱却できないのだ。

自分のパソコンを見ながら受講できる「Webセミナー」の登場

それら問題を解決する方法として、最近では、新しい手法が広がってきた。それが、「Webセミナー」である。Webinarとも言われているもので、さながらカンファレンスのセッションに参加しているように、プレゼンペーパーやツールのデモを、自分のオフィスにいながらにして自分のパソコン上で見ることが可能なのである。インターネットのブロードバンドの普及に伴い可能となった。ホームページやメーリングリストにWebセミナーの案内状を出して、関心のありそうなクライアント候補を集めて、インターネット上でセミナーを配信する。参加者は無限大に増やせるため、出来る限り営業色を薄めて、業界アナリストや大学教授などに新しい技術のトレンドを講演させたり、業界レポートを無料ダウンロードさせたり、中には、スターバックスのプリペイドカードをプレゼントするなど特典をつけ、登録を促している。それでも、特定一社のスポンサーでは営業色が抜けないため、複数企業がスポンサーとなり、業界団体を通じて、ネット上のバーチャルカンファレンスを開催し、Webセミナーを実施するケースも増えてきた。

映像としては、パワーポイントのプレゼン資料やソフトのデモを配信する。音声は電話乃至はPCで配信する。セミナー中に質問することも可能である。オフィスにいながらにして、カンファレンスを受講することができるし、また、時間の都合がつかなければ、あとで好きなときに録画したものを見ることができる。最近は、個別のクライアント候補に対しても、Webセミナーのシステムを用いて、遠距離でプレゼンテーションを行うことが可能となった。そのため、国境すら越えることが可能となった。システムを提供する企業としては、業界大手のWebEX(本社SantaClara)というナスダック上場企業が有名でよく使われている。これまで順調に成長を続けており、年商400億円まで拡大している。

Webセミナーを使ったニッチ市場を狙うベンチャーの新しい営業スタイル

今では、米国の多くのITベンダーが類似のサービスを活用している。特にベンチャー企業にとっては、非常に有利な営業方法である。プライベートカンファレンスを開催すると、コストと時間が馬鹿にならない。手間隙の割には確度が低いかもしれない。ニッチな市場とニーズを狙っていくベンチャーにとって、全米あるいは全世界から、幅広く対象を拾えるという、最大の優位性がある。ロングテールの実施につながる。

ホームページを開くと、Webセミナーが登録でき、若干の質問に答えていくと、登録が完了する。Webセミナー終了後、営業担当者から電話やメールが入って、更に情報交換を行う。画面と音声の2つを提供することで、従来の電話営業に比べて、はるかに訴求力を持つ、営業手法が生まれてきたのである。

日本でも広がってきてはいるが、まだまだ、コストのかかるカンファレンスが中心だと思われる。東京で仕事をやっていく分にはすぐに見込み客が集まるので、Webセミナーのニーズはないのかもしれない。しかし、地方在住企業や、競合の少なく利益率を高く取れるニッチな市場を狙うような営業活動を行うには、この活用が非常に有利である。

更には一度もクライアント先に訪問せずにソフトのインストール・メンテまで実行

日本で全く話題にならなかったアナウンスがある。オープンソースCRMベンダーのSugarCRMがWebEXと組んで、Webセミナーのシステムを使って、ソフトの配信を行おうというものだ。ソフトの配信をインターネットで行うだけでなく、インストールやメンテなども、オンライン上でやってしまおうというものだ。これがうまく行けば、一度もクライアント企業に訪問せずに、インターネット上で、営業、販売、カスタマイズ、インストール、メンテナンス、ヘルプデスク機能まで全て可能となるのだ。SaaS(software as a service)につながる新しい動きで非常に注目される。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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