ゴア前米国副大統領が期待する「不都合な真実」- 組み込み技術者は地球温暖化現象を防ぐ

徳田浩司(Koji Tokuda) 2007-04-06 04:25:01

サンノゼにおいて開催中の「Embedded System Conference」(組み込みシステムカンファレンス)にて、4月3日の基調講演を行ったのは、エンジニアでもサイエンティストでもなかった。しかし、私自身ずうっと楽しみにしていたものだった。なぜなら、この講演者は、シリコンバレーのインターネット、ナノテク、エネルギー関連技術ブームの火付け役であり、もう10数年以上も関心を持ち続けていたのであるが、はじめて生の声を聞ける機会だったためである。

登場したのは、映画「不都合な真実」(An Inconvenient Truth)で環境問題スペシャリストとして脚光を集めているAl Gore アル・ゴア前米国副大統領であった。

ゴアの唱える「不都合な真実」

「不都合な真実」とは、地球温暖化現象への対応を訴え、世界中を講演するため旅するゴア前米国副大統領が主役のドキュメンタリー映画で、今年のアカデミー賞まで受賞してしまったものである。地球温暖化現象が進んでいるが、それは人間の仕業であるとして、さまざまなデータをビジュアルに提供した衝撃作である。政治的な立場や、科学的根拠が正しいかどうかはともかく、地球環境のために自分も何かしなくてはいけない、と思わせるだけの非常にインパクトのあるものだった。

ゴアの推進するテクノロジー

ゴアといえばもともとテクノロジーには非常に強い。90年代初頭に「情報スーパーハイウエー構想」をぶち上げ、それ自体は実現しなかったものの、その後のシリコンバレーのインターネットブームに多大な影響を及ぼしたのは有名だ。今のナノテクブームも、ゴアが副大統領時代に関連技術への投資を進めたのが大きな要因となっている。また、現在、シリコンバレーはエネルギー関連技術への投資で盛り上がっているが、もともと地球環境問題も70年代ごろから手がけており、米国のリーダーとして活躍してきたのもゴアだった。テクノロジーの先端でゴアが旗振りしていたのは事実であり、そのため、シリコンバレーでのゴア人気は根強いものがあり、講演会は大変な盛り上がりであった。

現在はAppleの社外取締役でもあり(映画で、講演や視察のため、マッキントッシュを持って世界中を旅する姿が何度も出る)、また自らベンチャーキャピタルを立ち上げ、環境問題に取り組む企業などに投資をしている。最近サンフランシスコにマンションを購入しており、シリコンバレーでの活動に力点をおいていることが伺える。

組み込みシステムの事例として紹介されたトヨタプリウス

組み込みシステムとは、自動車などの機械や電機機器などを制御するために「組み込まれた」ハードとソフトである。どちらかというと、縁の下の力持ち的な存在で、ITの中でも割と地味な世界だと思う。しかし、さすがに話題の人物の登場で、カンファレンス出席者が席を求めて早くから講演会場に並び、会場はほぼ満席で、3000人ほどが出席したと思われる。中にはベビーカーを押す母親の姿も見られ、ゴアの話が直接聞けると聞きつけて、業界とはあまり関係のなさそうな人まで参加していたようだった。

今回のカンファレンスでは、組み込みシステムの実例として、展示会場にて、トヨタプリウスの実物が紹介されていた。ダッシュボードや座席などをはずして、どんな組み込みシステムが搭載されているか、中身が紹介されていて、人だかりだった。プリウスはご存知の通り、エンジンとモーターの両方を効率的に組み合わせて動くハイブリッドカーで、ガソリンと電気のどちらを使う方が燃費がよいのか常に自動的に判断して動くため、組み込みシステムが非常に重要である。燃費が格段によく、ガソリンの価格が高騰している現在人気があるようで、ホンダのハイブリッドとともにシリコンバレーでもよく見かける。地球環境にやさしいシステムなのである。

ジョークで笑いの連続のゴアのプレゼンテーション

さて、ゴアのプレゼンだが、まずは映画ですっかりおなじみになったお決まりの自己紹介で始まった。

「I am Al Gore. I used to be the “Next” President of United States of America.」「かつて(ほんの一瞬だけ)アメリカ合衆国の次期大統領だったアル・ゴアです。」会場から笑いが漏れると、続けざまに「I don't think that's funny.」「私にとっては笑い事ではなかったですよ!」とこれもまたお決まりの文句で、大爆笑となった。大統領選に敗れたことなどいろいろとネタが続き、笑いの連続であった。

ゴアは、エネルギー効率のよい組み込みシステムが、現在直面している地球温暖化減少を解決するのを助けるとアピールした。「我々は、さまざまなところにインテリジェント(知性)を組み込んでいる。但し、政治を除いては」とブッシュへの皮肉を付け加えることを忘れなかった。

組み込みシステムでエネルギー効率を高める「ElectroNet」

ゴアによって、地球環境問題への対策として、組み込みシステムを使ったアイディアが披露された。先のプリウスなど一例であるが、組み込みシステムにより、あらゆる消費電力を下げることができるということだ。

小さな発電設備を多数グリッド型にエネルギーの消費地に配置することで、エネルギー効率を高めようとするための電力供給サービス「ElectoNet」がその一例である。個人や企業は電力を買うだけでなく、自分で発電した余剰電力を売ることもできるものだ。先月、ゴアが証人として発表した米国議会の公聴会で紹介したものである。ゴア自身、自宅で自家発電しているという話である。従来の電力サービスにおいては送電ロスがあり、これをなくすものとして、昔からこのアイディアはあったが、効率的な小さな発電装置がなく、実現はされてこなかった。ところが現在では、風力発電、太陽光発電、燃料電池などが現実的なもので、身近なものになりつつある。またこれまで火力発電所の発電効率は40%にとどまり、60%は大気に無駄に放出されていた。ElectroNetでは、発電設備が職住近接しているため、これまで大気に放出していた熱を事業用・家庭用熱源として使うことが可能となり、エネルギー効率は格段に上がる。そこに、エネルギーの流れをコントロールできる組み込みシステムを取り付けることで、効率的なエネルギー利用ができるのではないか、という主張である。実際に、技術的にはもう実現可能な世界なのである。

Crisis「危機」は「危険」による新しい「機会」の到来

ゴアは、Crisis「危機」とは日本語と中国で2つの漢字の組み合わせの言葉で、それぞれ意味を持つと説明した。「危険」Dangerと「機会」Opportunityである。現在の状況は確かに危険ではあるが、新しい機会も生まれているということである。スプートニクによる有人宇宙旅行でソ連に先を越されてしまったが、英知を集めることで、人類初の月に人間を送り込み、無事に帰還させることを可能とした、というアメリカの過去の成功事例に触れた。

熱の問題は非常に大きな問題であり対処しなければならない。しかし、組み込みシステムのエンジニアリングは大きな希望であり、それを解決できる強力なソリューションとなりうると主張した。「組み込みシステムのエンジニアリングで、インテリジェントが組み込まれたトータルシステムを作ることができ、不可能を可能とすることができるのである。あなたがたエンジニアは、この将来展望をリードすることができる。そして、エンジニアリングは、それを実現しつつあるのである。」

Thank You!という締めの言葉と同時に、全員が立ち上がり拍手喝采となったが、同じく立ち上がって拍手をしている自分に気がついた。

アメリカの求めるリーダー像

余談だが、ゴアは、2000年のアメリカ大統領選に敗北したあと、その敗れ方が尋常ではなかったこともあり、失意のどん底であったそうである。ご存知の通り、2000年の大統領選では一旦は勝利したかと見えたが、ブッシュ陣営の主張によりフロリダでの再集計で敗れてしまったのであった。ところが、現在見る姿は非常に堂々としていた。自分の主張をわかりやすく、かつ力強いメッセージで訴える。時折、自分の失敗や苦難すらユーモアとし、ヒューマニズムも織り交ぜながら、民衆のハートをつかむ。プレゼンテーションの天才で、これぞアメリカが求めるリーダー、という感じがした。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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