クラウドコンピューティングからシンクライアントを考える その(1)

若井 直樹(Naoki Wakai) 2008-09-22 19:45:35

 前回Googleに関する記事を書かせてもらったが、その後もあちらこちらでGoogleの動向に関する記事やコラムが提供されている。特に、クラウドコンピューティングに関しては、元ガートナーのアナリストで現在テックバイザージェーピーの代表を務められている栗原氏が、「クラウドコンピューティングのインパクト」の中で非常に明瞭かつ簡潔にまとめられているので、勉強になった。

 さて、クラウドコンピューティングへの注目が高まる中で、同時にアクセス端末としてシンクライアントも同時に強い注目を浴びるようになってきた。日本のブロガーの中には、「シンクライアントこそ家庭で使うのに最適である」ということを述べるものまで現れている。海上自衛隊が、シンクライアントを約3万台導入するなど、大規模な事例も徐々にはあるが、増えてきている。

 シンクライアントの最新動向をWeb上で検索していると、「シンクライアントが多様化してきている」というコラムを見つけた。私がシンクライアントビジネスに携わっていた頃からずっと疑問に想っていたことが一つある。それは何を持ってシンクライアントと定義するのかということである。

 ガートナーでアナリストを務めていた頃、私が最初に手がけたのは「ERP」の普及であった。ガートナーによる「ERP」の定義を日本に紹介するまで、最も近い言葉として「統合業務アプリケーション」という言葉があったが、これは「ERP」の一側面を表現しているに過ぎない言葉である。「ERP」とは、MRPあるはMRPIIがデータベースを核に水平に業務間連携を実現したものを表現していた。つまり、生産管理システムをコアに持っていることを前提としていた。

 ところが、「ERP」を日本に紹介した後、「ERP」を経営者に分かり易く伝えるとい別の角度から表現すると称して「大福帳管理システム」という表現が登場した。これは、確かにわかりやすい表現ではあるが、あくまでもデータベースの統合にフォーカスした表現だ。ここから、「ERP」の定義は変化する、つまりガートナーの定義には該当しないが、「大福帳システム」には該当するとしたベンダーがすべからく「ERP」製品としてブームに乗ろうと盛んに宣伝をはじめたのだ。このことは、ユーザー企業が、アプリケーションを選定する場合のクライテリアやRFPに多大な影響を与えた。

 定義が現実にあせて変化することは避けようのないことだ。しかし、どのような背景で定義のどの点が変更されているかをよりよく知ることは、ユーザー企業にとってもっとも重要なことである。

 シンクライアントに関しても同様だ。そもそもガートナーの最初の定義では、シンクライアントとは「ソフトウェアのアーキテクチャを指すのであって、端末であるハードウェアに対する定義ではない」ということをご存じだろうか。つまり、すべてのアプリケーションがサーバ上で稼働し、サーバ上に作成されるバーチャルデスクトップ上であらゆるオペレーションを実行することを可能にする仕掛けのことである。まさにRDPとターミナルサーバによって実現されている世界を指していた。

 ところが、日本でシンクライアント・ハードウェアが普及を始めるのは、「個人情報保護法」の施行をきっかけとしている。さらにもう一つ忘れてはならないのは、Windows XP Embeddedの登場である。当時、シンクライアントの定義や市場予測に関して、ガートナーをはじめとする調査企業は、日本においてはほとんど口を閉ざしていた。明確な定義を提供することすらなかった。その結果、シンクライアントに関わるビジネスに携わる企業や担当者は、「データの所在」にフォーカスを当ててシンクライアント、しかもシンクライアント・ハードウェアを中心に、その効用を論じ始めることとなった。

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