エンタープライズ2.0の定義にまつわる永遠の議論

吉田健一(Kenichi Yoshida) 2006-09-20 17:41:45

 今日は夏休みを頂いてタイのサムイ島に来ているのだが、最近のリゾートはガンガンに無線LANが入るので更新を。今日は、これからの議論の土台としてもう一度エンタープライズ2.0の定義を行っておきたい。

Enterprise2.0=Web2.0 for Enterprise

 エンタープライズ2.0には明確な定義がない。現在、様々なベンダーやエキスパートが我も我もと「Buzz Word合戦」を繰り広げている真っ只中である。Buzz Wordとは、かつての「e-commerce」、今日の「SOA」「SaaS」のように「専門的な響きを持つ流行語」のこと。多くは商業的な意味合いを持ち、ベンダー、エキスパート、メディアが三位一体となって作り出す、共同幻想である。

 実はもともとWikipediaに「Enterprise2.0」という言葉があったのだが、先日削除された。理由は「諸説ありまだ明確でない。現状では商業的過ぎる。」からとのことである。Buzz Wordはそもそも商業的なのだが。

 エンタープライズ2.0の起源は、ハーバードビジネススクール助教授Andrew McAfeeがSloan Management Review Spring 2006に投稿した記事「Enterprise2.0:The Dawn of Emergent Collaboration」にある。

 この論文では、BlogやWikiに代表されるWeb 2.0のテクノロジーを企業内のナレッジマネジメントツールとして利用することをエンタープライズ2.0と呼んでいる。そして、投資銀行のDresdner Kleinwort Wassersteinにおけるイントラブログ活用事例を踏まえ、エンタープライズ2.0はこれまでのナレッジマネジメントの失敗を補い、大いに成功させる可能性を秘めているということが論じられている。

 この論文に対して「2000年のナレッジマネジメントブームと同じじゃないか」「インターネットとエンタープライズは根本的に違う」といった批判が繰り広げられているが、その内容については別の機会に論じるとして、エンタープライズ2.0=ブログ・Wiki等のWeb2.0ツールの企業内活用という定義がある程度定着しているのは事実である。

 実際、現在のWikipediaで「Enterprise2.0」を引くとSocial Softwareという言葉にリダイレクトされるようになっている。そこでは、

 企業内で活用するサーチ、Wiki、ブログ、ソーシャルブックマーク、ソーシャルタギング、RSS等のWeb2.0及びソーシャルコンピューティングのツール

とあり、McAfeeの定義に近い。こうしたソーシャルソフトウェアが企業を変えることに対する期待感は、イントラブログ、Business Wikiベンダーにも強くあり、論戦の一角を占めている。

Enterprise2.0=Next Generation of Enterprise

 一方で、もう少しエンタープライズ寄りな人たちの間では、「いやいやそんなことないでしょう」という議論も出てきている。ナレッジマネジメントの大家で「ワーキング・ナレッジ」の著者であるバブソン大学トーマス・ダベンポート教授はこうした「ソーシャルソフトウェアが企業を変える」論に警鐘を鳴らしている。彼によれば、

 「NASAの宇宙開発プロジェクトの品質・コスト・スピードを高めるためにナレッジマネジメントを用いるとするとどのようなアイデアが考えられるか」というテーマでMBAの学生にケースディスカッションさせた。その結果でてきたのが「NASA社内にWikiを立てみんなで自発的にWikipediaを作る」というアイデアだった。しかし、もし私がこれから宇宙に飛び立つ宇宙飛行士だったら、社内Wikipediaなんて信じられるだろうか?社内のベストなエキスパートのベストな知識によって、自分のロケットの発射を支援して欲しい。

 とのこと。うーん、ごもっとも。

 こうした「エンタープライズはそんなに甘くない」論の人たちの間でのエンタープライズ2.0の定義は少し異なる。エンタープライズ2.0のエバンジェリストとして有名なコンサルティング会社Sand Hill GroupのCEO、M.R.Rangaswamiによれば、

 エンタープライズ2.0は単なるエンタープライズ向けのWeb2.0ではない。エンタープライズには、レガシー環境もあれば、無数のベンダーが提供するデータのミスマッチや、厳しい規制、広範囲なユーザーがある。Web2.0はエンタープライズにも効果をもたらすが、エンタープライズ2.0はより広く、複雑なビジョンとなる。

 具体的には、テクノロジー、開発モデル、デリバリー方法論の2つが組み合わさったシナジーである。テクノロジーには、オープンソース、SOA/Web Service、Web2.0、レガシー・カスタムがあり、開発モデルには自社開発、アウトソース開発、オフショア開発があり、デリバリー方法論にはライセンス、SAAS、ダウンロードがある。

 とのこと。 つまり、そもそもエンタープライズの世界が1.0から2.0に変わろうとしていた。Web2.0はその1つのピースに過ぎず、大きく変わろうとしているEnterpriseの世界の次世代ビジョンがエンタープライズ2.0である、という視点だ。

 2006年3月28日号の日経コンピューターもエンタープライズ2.0特集だったが、こちらも、「第2段階に到達した企業とその情報システムを、本誌は「エンタープライズ2.0」と総称したい。」と、Rangaswamiの定義に近い。

 Rangaswamiや日経コンピューターの視点はエンタープライズ側からみると至極もっともであり、納得しやすいはずである。ただ、オフショア開発やレガシーまでいれてしまうとちょっと何のことだか分からなくなってしまう気もする。

Enterprise2.0=Next Generation of Enterprise under the influence of Web2.0

 さて、本ブログでの定義はどうしようか。あまり、定義のための議論をするつもりはないのだが、大筋は日経コンピューターに近いのだがWeb2.0に近い分野に絞り

Web2.0のテクノロジーやコンセプトによりインパクトを受け、次世代に進化するエンタープライズITの方向性

 としたい。エンタープライズ側からみても納得感があり、かつWeb2.0に近い範囲に絞って議論ができそうである。

 定義はこれくらいにして、次回からは具体的なテクノロジー・コンセプトを取り上げていきたい。昨日バンコクでクーデターが起きたらしいので、帰れることを祈りつつ...

(吉田健一@リアルコム

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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