MS Office 2007は2.0か?

吉田健一(Kenichi Yoshida) 2006-10-31 16:26:59

 最近、Googleと同じくらいホットなニュースが続いてるのがマイクロソフト。

年明けのVista、Office2007の発売に向けて市場は期待と不安が渦巻いている。それではOffice2007の世界はどんな世界になるのだろうか。次の絵はマイクロソフトが提唱する2007の世界だ。

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 ユーザーインターフェーズが一新され使い勝手が格段に向上したOffice2007でクライアント側を統一、サーバー側はExchange2007とSharepoint2007で統合することでクライアントと連携したコラボレーション環境を実現する。システム基盤はWindows2003 Server上のActive Directoryで統一することでシステム運用のコスト・リスクを低減させる。セキュリティにはWindows Rights Managements Service、ワークフローはWindows Workflow Foundationでコンプライアンス対応も万全である。

 ユーザー、システム管理者、マネジメントの3者それぞれにとって魅力的なOffice2007。さて、皆さんはこの絵を見てどう思うだろうか?

 現在のOffice環境と比べると、便利になる人も数多くいるだろう。ただ、なぜだろう、私はなんともいえない違和感を感じてしまった。

■統合(Integration)の限界

 何で違和感を感じたのか。どうも最近お付き合いをしている顧客企業の「顔」を思い浮かべると、何か少しずれている気がするのだ。どんな「顔」なのかをご紹介しつつ、何で違和感を感じたのかをお伝えしたい。

大手電子機器メーカーA社

 大手電子機器メーカーはカンパニー制を引いている自由闊達な会社。エンジニアが多いこともあり、部門毎に独自のシステムが多く入っている。最近は、チームでBlogやWikiを立てたり、SalesforceのようなASPを使っている部署も多い。特に人気のあるのは無料ソフト。Google Desktopなどは生産性向上のツールとして広く普及している。現場の人はこんなことを言っている。

 「昔はいちいちIT部門に話をしてシステム開発しなきゃいけなくてスピードが遅かったけど、最近はオープンソースやASPも豊富だから業務ニーズに合わせてスピーディにシステムを使うことができるようになったよね。正直、全社共通で提供されるものより、Googleの無料サービスなんかの方が圧倒的に使いやすいよね。」

大手自動車会社B社

 大手自動車会社では国内約100の販社が車を販売している。販社はメーカーとは資本関係のない別会社。販社の営業スタッフは約1万人いるが、PCは支給されていないので自宅や個人のPCで作業をすることも多く、個人のメールアドレスで営業をしているケースもある。こうした中でもメーカー、販社、営業スタッフの間の情報共有が営業力を高めるために不可欠となりつつある。メーカーの営業支援部門はこんなことを言っている。

 「メーカー、販社、営業スタッフをつなぐ情報共有をやろうとすると、PC環境もネットワーク環境もばらばらだから、もうWebでやるしかない。Webでやれば、営業スタッフが自宅でも仕えるし、販社が個々に作っているWebサイトとも連動できる。将来的には、車を買うお客様の含めた自由な情報共有の仕組みをWebの上に作りたいね。」

大手事業グループC社

 大手事業グループでは持株会社の下に60の事業会社がグループとして存在している。事業会社の中には連結対象もあれば、マイナー出資の会社もあり、システムの統一は不可能だ。しかし、持株会社と60の事業会社の間で人と情報の共有もまた不可欠である。以下、グループのシナジー戦略を考える企画担当のコメントだ。

 「60の会社のシステムを統一するのは無理。個別にレガシーもあれば業務システムもある。とはいってもグループとしてのガバナンスも必要だ。そこで重要なのは、個別システムがバラバラであることを前提として、如何にガバナンスを実現するかのバランスである。」

■ファイヤーウォールの壁はいつ崩壊するか

 私のお伝えしたい「違和感」伝わっただろうか?

 1つ目の「違和感」は、ファイヤーウォールの中を1つの世界で統一(Integration)するのは現実的ではなくなりつつあることにある。部門毎に個別システムやレガシーシステムもあるし、オープンソース・ASPの利用も進んでいる。また、Googleに代表される無料のWebサービスを個人で利用するのも、もはやビジネスの常識になりつつある。これを無理やり廃止して、生産性と業務スピードを下げるのはナンセンスだ。つまり、ファイヤーウォールの中を1つのアーキテクチャで統一することは不可能であり、様々なシステムや環境が混在することを前提にすることが求められているのだ。

 2つ目の「違和感」は、業務がファイヤーウォールの中だけで話は完結しなくなっていることだ。企業の壁は恐ろしいスピードでなくなりつつある。多くのビジネスプロセスは外部にアウトソーシングしてしまい自社だけではで完結しない。グループ経営が進み、利益の大半は出資先からの配当金というケースも多い。また、マーケティングの大きな役割を消費者の口コミが果たすようになりつつある今日、消費者と生産者の壁も薄まっている。そして、エンタープライズで働く社員自身が、家に帰ると1消費者となるのである。すなわち、「エンタープライズ=ファイヤーウォールの内側の完全統制(Fully Integrated)された環境」という時代は終わり、だんだんとWebとエンタープライズの境目がなくなり、全てが今のWebのようなフラットな世界に終焉しつつあるように思える。

 この2つの観点で考えると、Office2007は「ファイヤーウォールの内側の完全統制された環境」に見えてしまう。もちろん、全社員にOffice2007を入れて、サーバーサイドをExchangeとSharepointを導入、ユーザー認証はActive Directoryで統一する、そんな環境が実現できる企業もあるだろう。それができる企業にとって、Office2007は朗報だ。しかし、ファイヤーウォールの壁が崩壊しつつある企業にとっては、Office2007の絵は必ずしもフィットしないかもしれない。

■2007年は「2007」になるか 

 Appleは1984年にMacintoshを発売する時に「1984年は1984年にならない」というコマーシャルをスーパーボールの合間に流して一躍有名になり、PC市場に旋風を巻き起こした。このコマーシャルは、全体主義・管理統制社会を描いたジョージ・オーウェルのSF小説「1984」に引っ掛けて、「これまでの世界はメインフレームという中央集権的なコンピューターの世界(=IBM)であった。Appleは、コンピューターの力を個人へエンパワーすることで、1984年を小説の「1984」のような世界にはしないぞ」とうたったものだ。

(実際に、その後メインフレームの世界はぶち壊されコンピューターがパーソナルになる時代にはなった。しかし、壊した後の覇者がAppleではなかったことはご存知の通りだが...)

 さて来年は2007年だ。VistaとOffice2007が発売されると同時に、Web2.0の波が本格化してくる。「ファイヤーウォールの壁」がいつ崩壊するのかはわからないが、「2007」年が「2007」になるのかどうか、非常に楽しみなところだ。

吉田健一@リアルコム

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