アテンション・エコノミー

吉田健一(Kenichi Yoshida) 2008-10-23 15:41:00

今日のビジネス環境でもっとも枯渇しているリソースは、人・モノ・金でも情報でもなく、アテンションである。既に世の中には兆単位の情報が流れている。増大する情報洪水の中では、もはや技術、アイデア、ニーズ等希少資源ではなく、それに気づく能力、つまり「アテンション」が貴重資源なのだ。

■アテンション・エコノミー

こうしたアテンションの重要性に着目した「アテンション!(原題「Attention Economy」)」という本を紹介しよう。ナレッジマネジメントの大家、トーマス・ダベンポート教授の本である。

本書のメッセージは、

  • 人間一人が払えるアテンションには限りがあり、アテンションを奪い合うゼロサムの戦いになっている
  • しかし、過剰な「情報競争」に溺れて適切なアテンションが割り当てられず、多くのビジネスが失敗に終わっている(経営者の43%が多すぎる情報のおかげで重要な決定が先送りされ、決定能力そのものも影響を受けていると考えている)
  • そこで、アテンションに戦略的な優先順位をつけ、適切に配分するアテンション・マネジメントが今後の重要な経営課題となる

である。アテンション・マネジメントのくだりは実際のビジネス環境で実施するのは少々難しい気もするが、アテンションの枯渇という問題意識は鋭いテーマを突いているといってよい。原書が出たのは2001年であるが、今読んでも全く色あせない。

「情報過多なら検索エンジンを入れればいいじゃない?」と思われた方にはダベンポート氏は、

  • 情報技術のことになると、たいていの企業は二日酔いの迎え酒のような姿勢をとってきた。アルコールを多く飲めば二日酔いになるように、テクノロジーを広く使えば当然のこととして情報過多を産み、アテンション不足を引き起こす。

と痛快だ。また、テクノロジーの活用についても、

  • 情報と知識を適切に使用・経営管理するためのしかるべき教育は、いまだ行われていない。ほとんどの企業が、ナレッジや情報を発見・保存・活用する方法を教育していない。(アウトセル社の調査によれば、情報源を検索・収集・評価する訓練を8時間以上受けたことのあるのは18%だった)。

 と耳が痛い。

 ■少ないことは良いことだ

さて本書の中で興味深い研究が引用されていたので、ここで紹介したい。

ハーバード・ビジネス・スクールのモーテン・ハンセンとマーティン・ハースによって実施された「Competing for Attention in Knowledge Markets(以下、グラフは本資料から引用)」はアテンションと情報の関わりについて定量的に行った少ない研究である。

この研究ではあるコンサルティング会社の社内ナレッジデータベースの閲覧パターンを調査した結果、ひとつの情報分野に多数の情報提供者がいる状態=混雑した情報市場において、次のことが成り立つことを明らかにした。

1)情報の量が少なければ少ないほど、情報が閲覧される

次のグラフは同社の社内データベースの閲覧数(No.Hit)とデータベース毎の文書数(No. of Documents)の関係をあらわしたもの。

 「Crowded」すなわち、ひとつのデータベースに多数の情報発信者がいる場合には、文書数が多ければ多いほどデータベースの閲覧数は減少してしまう。これは、雑多な情報が大量に出されることでデータベース自体の信頼性が下がり、結局データベースが見られなくなってしまうということである。「Uncrowded」すなわちデータベースの情報発信者が特定されている場合にはその限りではなく、文書数が増えると閲覧数も増える。これは情報発信者が少ないため、その発信される情報の質に対する信頼性が下がらないからであろう。

2)情報がナレッジ・マネージャーにより厳しくスクリーニングされた方が情報が閲覧される

次のグラフは、横軸にナレッジ・マネージャーが投稿する情報を厳しくスクリーニングしている場合(Less is More)と、ナレッジ・ マネージャーがあまりスクリーニングせず、どんどん情報を出している場合(More is More)を比較したもの。

この分析でも、 情報発信者が多数いる「Crowded」の場合には、情報を厳しくスクリーニングした方がデータベースが閲覧されている。1の分析と同様、情報量が多くなればなるほど、情報に対する信頼性が下がり結局データベースを見なくなってしまうのである。ただし、「Uncrowded」の場合はその逆の傾向がでている。

この分析から導きだされる結論は、情報発信者が多数いる場合には、情報量の統制とスクリーニングが閲覧者への着信力向上の鍵だということだ。もしくは、情報発信者の数を減らすというオプションもありえる。

企業内のイントラネットやデータベースで情報洪水が起こり、量が爆発することで利用者はデータベースそのものへの信頼性を失い結局情報を見なくなっている、そうした事態が発生していることは多い。 こうした状況に対して、ダベンポートの言う「迎い酒」のようにテクノロジーで解決しようとするのではなく、情報量の統制とスクリーニングのあり方を本格的に考える時代に来ているのかもしれない。

 

吉田健一@リアルコム 

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