クラウドは本当にコストダウンになるか?

吉田健一(Kenichi Yoshida)

2009-11-27 12:51

今年度のIT予算はどこの会社も凍結。そんな中注目を浴びているのがクラウドによるコストダウンだ。GoogleAppsやSalesforceの大企業への導入が進んでいるが、本当にクラウドはコストダウンにつながるのだろうか?

■コストはどこで発生してる?

ある大手製造業の例だ。その会社は古くからNotesを使用しており運用は外部ベンダーに委託、年間運用費は3億に上っていた。新規予算ゼロの環境の中でこのNotes運用費の削減がテーマとなっていた。

そこで検討されたのがGoogleAppsだ。Google Appsは1ユーザー年間6千円なので全社員でも6千万円。2.4憶円のコストダウンとなる算段であった。

しかし、実際にはGoogle Appsは導入されなかった。

というのも、3億のNotes運用費を詳細に調べていくと、ネットワーク、ハードウェアの償却費・運用費やサーバーの運用費の比率は極めて小さくコストの大半は、

・ユーザーサポート/ヘルプデスク
・ユーザーEUC支援
・ガバナンス対応

に割かれていた。

たとえば、「大事なメールを消してしまったので戻してくれ」「情報漏洩の可能性があるので過去ログを分析してくれ」への対応に人を張り付けていたのだ。GoogleAppsにしたところで、こうしたサービスが不要になるわけでなく、結局別のベンダーにこうしたサービスを委託せねばならず、ほとんどコストダウンにならないのである。

■クラウドの5レイヤー

クラウドによるコストダウンを考えるときにIT部門が提供しているサービスのどの部分をクラウド化=ネットの向こう側に持っていくのかということを考える必要がある。

IT部門が提供しているサービスは大きく5つのレイヤーに分けることができる。

 

まず一番ベースとなるレイヤーはハードやネットワークの運用を行う「Layer1:インフラ」である。その上に、OS・DB・サーバー等の運用
を行う「Layer2:ミドルウェア」がある。そしてミドルウェアの上で動「Layer3:アプリケーション」がある。ここまででとりあえず「ソフトウェアが動いている」状態は実現できる。

しかしIT部門の仕事はここでは終わらない。前述のユーザーサポートやガバナンス対応などの「Layer4:サービス」の業務がある。そして
最終的にはユーザー部門の業務を改革していく「Layer5:ソリューション」まで実現しなければIT部門の存在価値はない。

一般的にクラウドと言われているのはLayer1〜3を指すことが多い。AmazonEC2のようなIaaSはLayer1のクラウド、GoogleAppEngineのようなPaaSはLayer2のクラウド、そしてGoogleAppsやSaleseForceのようなSaaSはLayer3のクラウドである。

Layer1〜3までをクラウド化することでコストダウンが実現できる可能性は十分にある。しかし、大手企業であればあるほど全体のコストにしめるこれら部分の範囲はあまり大きくないのが実情だ。大企業におけるコストダウンではLayer4、Layer5に切り込む必要があるのだ。

この領域をクラウドの向こう側に出すサービスもある。Layer4まで含めたクラウドはAMO(Application Managed Outsourcing)やホステッドクラウド、Layer5まで含めたクラウドはBPO(Business Process Outsourcing)、KPO(Knowlege Process Outsourcing)と呼ばれている。

あなたの会社ではどこにコストが発生しているのか?
それは社内でやるべきかクラウドに出すべきか?

これらの問いに答えずにやみくもにベンダーの言葉に惑わされると痛い目をみることになる。これから数回にわたり大企業における真のクラウド活用のあり方について考えていきたい。

吉田健一@リアルコム

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※このエントリはZDNETブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNET編集部の見解・意向を示すものではありません。

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