データドリブンな意思決定が重要になってきている。では、経営アクションをデータ主導で起こすためにはどのような方法論が必要なのか。日々の意思決定から、中長期を睨んだ経営改革まで、その判断の根拠となるデータの質を高める具体的な手法とは何か。ITRでリサーチ・フェローを務める平井明夫氏の見解はこうだ。
いま企業がデータドリブンで直面する「2つの課題」
平井明夫氏
ITR
リサーチ・フェロー
データドリブンな意思決定の重要性が叫ばれている。データは「現代の石油」などとも称され、企業に多様な価値をもたらすと期待されている。だが、その方法論を知らなくては実際の活用は難しい。ITRでリサーチ・フェローを務める平井明夫氏は、こう解説する。
「データに裏付けられた指標に基づく意思決定ができればデータドリブンといえますが、そうでない意思決定は単なるカンにすぎない、ということになります。
企業の意思決定サイクルとして、例えばPDCAが知られていますが、その運用にあたっては、計画(Plan)したことが実行段階(Do)でうまくいっているか、客観的に評価することが必要です。例えばKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)やKM(キー・メトリクス)といった数値データです」
PDCAは多種多様なプロジェクトで利用されるフレームワークだが、現実にはデータに基づいた評価が不徹底になったり、データに基づいているつもりで単なる勘に頼っているような場面が、意外に多いのではないだろうか。こうした状況から脱却し、より積極的にデータドリブンな意思決定を行おうとした場合、企業はどのような点に注意すればいいだろうか。平井氏はこう説明する。
「最近よく聞かれるポイントは2つあります。1つは、非定型分析への対応です。計画通りにいっているかの判断は、KPIやKMをモニタリングしていればできます。そうでない場合の原因究明を非定型な分析で行えるかどうか。自らデータ項目を選び、必要な分析ツールを駆使して結論を導き出す。こうした分析者のリテラシーも問われてくるでしょう。その能力の向上が課題となってきます」(平井氏)
非定型分析を助けるツールとしては、セルフサービスBIがわかりやすい。集計ロジックの作成やグラフの種類の選択が分析の専門家でなくとも比較的簡単に行えるようになっているため、スキルのない初心者でも利用しやすく、平井氏もすすめている。
「もう1つは、ビッグデータへの対応です。ビッグデータを徹底分析すれば、売上やコストを左右する新たなKPIやKMを発見することも可能です。ですがこちらも、データ活用のためにはITインフラやITリテラシーの両面で対応が必要で、それが後手に回っている状況です」(平井氏)
加えて、ビッグデータでは大容量データを短時間で処理できるインフラ能力が要求される。特に大規模なデータベースを構築する際は、ディスクI/Oに関するボトルネックを最初に解消することがポイントで、オールフラッシュストレージに代表される次世代ストレージは有効な解決策になりえるという。
そのうえで、2つの課題に取り組む優先順位も大事だ。
平井氏は、「自社の緊急課題がどこにあるかを正確に把握したうえで順位を決めるべきです。例えば、非定型分析ができていない企業は、PDCAサイクルのCheckフェーズの段階でうまくいっていない。こうした場合は、ビッグデータ活用のためのインフラ整備や人材育成よりも、まずは非定型分析を実行するためのツールの導入や担当者レベルのデータ分析リテラシー向上に集中するべきです」と指摘している。