欧米市場を中心にエレクトロニクス機器を開発、販売する老舗メーカーのユニデンホールディングス株式会社(以下、ユニデン)。同社は、埋もれかかっていた「HCL Notes/Domino」(以下、ノーツ)環境を蘇らせ、社内IT環境をアップデートした。そこに大きく寄与しているのが、既存のノーツアプリをブラウザーやモバイル端末で動かせるようにする最新テクノロジーを搭載した「HCL Nomad」(以下、Nomad)である。これにより、業務ユーザー環境を改善すると同時に、従来のノーツの弱点であった運用時におけるクライアント維持管理の煩雑さも解消されている。Nomadの革新性とノーツを使い続けるメリットについて、同社のシステム開発を統括する情報システムグループ 課長 渡邊太一氏と、開発パートナーであるパナソニック ネットソリューションズ株式会社 技術本部 テクニカルソリューション部 次長 南達夫氏に話を聞いた。

ユニデンホールディングス株式会社
情報システムグループ 課長
渡邊太一氏

パナソニック ネットソリューションズ株式会社
技術本部 テクニカルソリューション部 次長
南達夫氏
放置されていたノーツを3年前にアップデート
――自社のIT運用環境についてお話しください。
渡邊氏当社では現在、グローバルで約800人の社員が働いていますが、大多数がベトナムの工場の人間で、ほかに日本に40人、米国に30人、オーストラリアに30人、中国に15人、フロント/バックオフィスや研究開発のスタッフが配置されています。システム担当者は日本では私ひとり、そのほかに各国で1-2人ずつ配置しています。その中で私がホールディングスのITマネージャーを兼務して、グローバルのIT環境も統括しています。
私はこの会社に来て3年なのですが、入社したらメールやワークフロー、文書・ナレッジ管理といったメインの業務インフラがノーツだったんです。私自身、以前勤めていた会社でノーツを使っていて、社内SEとしてノーツの保守やデータベース(DB)の開発をしていたのですが、ノーツを触るのは9年振りだったので、当時お世話になっていた南さんに相談しつつ、ひとり情シス状態でノーツ環境を整備・運用しています。
――ノーツはどのように運用していたのですか?
渡邊氏ノーツは約30年前から使用していたのですが、実は私が入社した時は10年くらい放置されていたんです。それで契約も見直しをして、ノーツ環境の入れ替えを進めていきました。我々はメーカーなので、ノーツ上に特許や過去のドキュメントなどの技術的な資産がたくさん蓄積されているのです。それらを維持していく必要性もあって、真っ先に古いDominoサーバーをマイグレーションしてバージョン8.5から10に全てアップグレードしました。
ノーツ運用上の課題を一括解消する「Nomad Web」
――他社製品にリプレースすることは考えなかったのですか?

渡邊氏それは考えにくかったですね。ノーツのDBも200くらいありましたし。ベトナムにもDominoサーバーを置いていて、中国ではコロナになる直前にオフィスの移転があって新たにサーバーを建てました。ただ米国とオーストラリアに関しては、メール環境は別のサービスに移行していてDBだけ使っているという状況です。
それでもやはり課題はありまして、アジア圏は広域LANで繋がっているのでノーツ環境はちゃんと動作するのですが、米国とオーストラリアではノーツクライアントを日本からIPsec接続で動かしていたので遅かったんです。更に両拠点では、PCを入れ替えてノーツクライアントをインストールする際に必ず問い合わせが発生し、ノーツで動いている請求管理業務でも経理担当者から頻繁に問い合わせが来る状態で、それらの対応が負担となっていて何かいい仕組みはないかと考えていました。
――ひとり情シスとしては厳しい状況ですね。
渡邊氏それで仕方なく、ブラウザーベースで動かせるようにDBを作り変えようかとも考えたのですが、そこでNomadが使えそうだという事を知ったんです。以前から南さんとのやり取りの中でNomadは紹介してもらっていたのですが、昔はiPadでしか動かないという認識で。それが昨年の9月くらいに、「バージョンアップしていてブラウザーで動きますよ」と聞いて、これはいいと。すぐに採用を決めました。

南氏当社では昔からノーツ案件を手掛けていて、渡邊さんから相談を受けた時は、ちょうど別のお客様に提案するために「Nomad Web」の評価を終えたところだったんです。それもあってお話をいただいてから2週間で発注に進み、1か月くらいですんなりと導入は終了しました。
結果として順調に進みましたが、当時はNomad Web導入に関する情報が出回っていなかったので、どれが正解かわからないという状況でした。そこで最初は苦戦を強いられることを覚悟して臨んだのですが、HCLのサポートに問い合わせをして、全体構成の説明を受け、その後に手順書を読むようにと言われてその通りに進めたところ、すんなりできました。ファーストユーザーだったので、そこは気を使いましたが(笑)
渡邊氏南さんが色々やってくれていて、私としては気付いたら動いていたという印象です(笑)。Nomad Webを入れたことで米国とオーストラリアでもノーツ環境が快適に動くようになり、両拠点での経理業務に関してはもうノーツクライアントは入れなくていいようになっています。結果として、グローバルのサポートがとても楽になりましたね。
南氏Nomad Webはよくできていると思います。ノーツが使いにくいといわれる際の要因は、「遅い」「セットアップが面倒」「動かなくなったときに現物を見ないとわからない」など、ノーツクライアントに起因することがほとんどです。それがNomad Webを使えば、基本的にキャッシュを消して再セットアップしたら解決するんですね。セットアップの手順自体もかなり簡略化されましたし。実際にユニデンさんのように、「海外拠点のセットアップは大変だから全部Nomadにしてブラウザーで使いたい」というお客様が他にも多くいらっしゃいます。

従来のNotes/DominoとNomad Webの関係図

Nomad Webの構成図
セキュリティを維持しつつ運用面も改善
――当初の課題が解決された以外に、Nomad Web導入でメリットを感じる部分は?

渡邊氏まず、ノーツクライアントのIDを一括管理する「IDボールト」機能がとても便利だと思いました。ノーツの良さの一つに、セキュリティの高さがあります。ノーツではIDファイルが鍵になっていて、鍵を持っていない人間はアクセスできないようにすることで安全性を確保しているのですが、今までのノーツクライアントでは鍵をPCに入れておくのでクラッシュすると取り出せなくなり、復旧させるのがとても面倒だったんです。それがIDボールトのサーバーで鍵を一括管理し、PCが壊れても自動でダウンロードできるようになったので、とても便利になりました。
――他にはいかがでしょうか。
渡邊氏開発言語として、引き続きロータススクリプトが使えることにメリットを感じています。当社にはロータススクリプトで開発したDBがたくさんあるのですが、スクリプトで開発したアプリはWebでは動かないので、ノーツアプリをWebアプリにするときには、一つひとつWeb対応された関数で書き直すかJavaScriptでロジックを置き換えなければなりません。そこをNomad Webは全部吸収してくれるんです。そのプロセスが要らないのは大きいですよね。スクリプトで書いた方がデバッグも楽なので、当社では昔の技術者が関数で作ったDBが動かなくなった時など、スクリプトで作り直しています。
9年ぶりにノーツに接して本当に驚いた
――Nomad Web導入後の稼働状況はいかがですか?
渡邊氏Nomadに限らず、Dominoサーバーをアップデートしてからはノーツ環境全般が安定しています。当社ではDominoサーバーのバージョンが10、ノーツクライアントが12と10、一部でまだ8.5も混在しているのですが、サーバーとクライアントのバージョンが違うものを使っているから動かないというようなことはないんですよね。メールサーバーが8.5だったときは、Windows Server 2003の環境でたまに固まることがあったのですが、10にして Windows Server も2019の環境になってからは非常に安定しています。

南氏10になってから安定しましたよね。要するに、プロダクトがHCL Softwareに移管されてからという事なのでしょうが。製品のアップデートも早くて、Nomadもユニデンさんに入れたバージョンでは英語版しかなかったですが、日本語版も追加されていますし、導入当初の印刷時やリッチテキスト回りの不具合もすぐに解消されましたしね。
渡邊氏9年ぶりにノーツに接して本当に驚いたんです。製品サポートもそうですが、Nomadのような製品は絶対に出てこないと思っていたので。前の会社の時は、Dominoサーバーで結構苦戦して南さんに相談したこともありましたが、そのようなことは皆無ですし。今はNotesから離れることなど考えられないと思えるくらい安定しています。
億単位のセキュリティ対策コストが不要に
――ノーツを使い続けていることで恩恵を得られていると実感されるのは?

渡邊氏最もメリットを感じる部分は、セキュリティ対策コストを抑えられていることだと思います。メールを他社製品に変えた米国とオーストラリアではセキュリティ対策にかなりのコストを費やしていますが、ノーツで運用しているアジア圏ではそこのコストが全くかかっていないんです。
南氏EmotetなどはOutlookの過去のメールを参照してそこから広がるといわれていますが、ノーツのコード上ではそのようには動けないので安全なんですよね。
渡邊氏先述したユーザーIDの仕組みもそうですね。アカウントが乗っ取られないですから。それも踏まえてノーツを使い続けていることで、入社して3年間で恐らく億単位のコストをかけずに済んでいます。
――業務面ではいかがでしょうか。
渡邊氏実は私が入社したときは紙ベースのワークフローが結構あって、入社してから現場の要求を受けてノーツでデジタル化を進めていたんです。それでNomadを入れるタイミングで全社員にiPhoneを配布して、メールだけでなくワークフローの承認などの業務もスマホベースでできるようにしました。その結果、業務効率はかなり上がったと思います。

ユニデンではNomad Web/Nomad Mobileで既存のノーツアプリを最新のデジタル環境で稼働させ、ワークスタイル変革を実現している(イメージ)
ノーツをやめる必要性は全くない
――他社ではDXと称して脱ノーツを進める動きも見られますが、移行がうまくいかず逆に生産性が上がらないという話も耳にします。
渡邊氏私もいろいろと製品を見てきましたが、市場にあるツールのほとんどは、ワークフローとかドキュメント管理とか特定領域に寄っていて、目的によって製品を使い分けねばならないケースも多いですよね。ノーツではその必要性はなく、ドキュメント管理やナレッジ管理、ワークフローとどれも使えます。そこにNomadが出てきて従来のノーツクライアントが要らなくなっているので、新たにノーツを使い始めても高い効果を得られると思います。

南氏今年はWindows 2012サーバーのリプレース問題でノーツのバージョンアップ案件が多くて、私のチームでは今バタバタと対応させていただいているところです。その際には必ずNomadの提案もしていますね。いい製品なので、お客様にお勧めしています。
渡邊氏正直なところ、私もユニデンに来る前はノーツから離れていたので、入社したときは「まだノーツ使っているんだ」と思いました(笑)。でも使ってみたら凄く進化を遂げていて、セキュリティ面や運用のしやすさを考えるともうノーツを手放すことは考えられないですね。一人で担当しているので、トラブルが起こると本当に大変ですから。特に長く使っていて資産がある企業であれば、ノーツをやめる必要性は全くないと思います。