競争の本質を覆い隠すグーグルとアップルの特許戦争

飯田哲夫 (電通国際情報サービス) 2011年08月23日 08時00分

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 GoogleによるMotorola Mobilityの買収は、Appleとの特許争奪戦であると言われている。しかし、その競争の本質は、特許の争奪戦ではなく、オープンイノベーションとクローズドイノベーションの戦いである。この特許の争奪戦は、競争の本質から目を逸らさせるとともに、特許制度の持つ課題を浮き彫りにしているように思われる。

特許は何のためにあるか

 そもそも特許とは、公正な競争を促すことを通じて、投資に対する適正なリターンを与えることを可能とする。特許が保護されるが故に企業はイノベーションへの投資を行い、社会はそれによってより豊かになる。しかし、特許が過剰に保護されるならば、特許を保有する企業はそれに安住し、新規に参入するプレーヤーはイノベーションへの投資をやめてしまう。

 こうした観点でみると、大手企業同士の特許戦争の話は今一つピンと来ない。特許を大量に保有することが係争の抑止力となり、特許を巡る争いに煩わされることがなくなるという話だ。

 保有特許の少ない新興企業が市場へ参入すると、既存の大手企業の訴訟攻撃にあって成長が抑制される。この構図においては、既存の大手企業が過去の保有特許によって市場の占有を続け、新規参入者がイノベーションによって市場にチャレンジすることは難しくなる。Googleほどの資金力があって、初めて対抗し得るということだ。

 結果として、社会が得るであろう利益は減少する。新しいイノベーションの芽が育ちにくくなり、公正な競争を通じて社会をより豊かなものとしていくことは出来なくなるからだ。

 つまり、特許争奪による戦争は社会を利する本質的な競争ではない。GoogleとAppleの戦いは、本来的には特許争奪戦ではなく、オープン戦略とクローズド戦略の戦いであったはずである。

オープン戦略とクローズド戦略の本当の戦い

 オープン戦略は、プラットフォームを無償あるいは安価に提供することを通じて、そのプラットフォーム上に多くのプレーヤーを呼び込み、イノベーションを活性化させる。GoogleはAndroidへ大きな投資をするが、それを無償でデバイスメーカーに提供する。

 そして収益は検索広告などを通じて薄利多売モデルで回収する。ただし、OSとデバイスが別々の企業によって提供されるため、その結合は同一企業によって提供される場合に比すれば「疎」とならざるを得ない。

 一方のクローズド戦略は、全てを一貫して自社開発することを通じて、ユーザーエクスペリエンスにイノベーションをもたらす。プラットフォームを無償で提供する必要はないので、より高い収益を確保することが可能となる。Appleはこのクローズド戦略を通じて高収益を上げているが、OSシェアではAndroidに大きく劣後している。

社会の利益のために

 このそれぞれに利点と欠点のあるオープン戦略とクローズド戦略、究極のところでどちらに軍配が上がるのかは判らない。しかし、それぞれにおけるイノベーションの継続は、消費者にとって大いに利をもたらすものである。それに対して、特許の保有合戦は、戦いの本質から目を逸らさせるとともに、イノベーションそのものを阻害することとなる。

 特許の争奪を背景としたGoogleによるMotorola Mobilityの買収は、特許の物量作戦という戦術の存在を表面化させた点において市場に驚きを与えたが、それ自体は特許を巡る競争の歪みを明らかにするものでもある。両社がより本質的な競争にリソースを投入することが、スマートフォン市場を更に面白いものにするに違いない。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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