腕に覚えのある分析官を集め、AI研究の最前線を顧客と共有--DATUM STUDIO

山田竜司 (編集部)

2017-09-01 07:00

 データ分析のコンサルティングを手掛けるDATUM STUDIOは、創業3年目のスタートアップだ。2014年の創業時2人だった従業員がこの6月時点で100人を超えるなど、業績を伸ばし規模を拡大している。好調の原因である、機械学習など人工知能(AI)領域の取り組みを同社の取締役の里洋平氏に聞いた。


DATUM STUDIO 取締役 里洋平氏

 DATUM STUDIOが取り組んでいるのは、集めた大量のデータを機械学習により分析、モデル化して、さまざまな知見を発見したり、数値を予測したりすることである。「現在、AIにできるのは、”専門家の行動を高度化、自動化すること”であり、これに注力しています」(取締役の里洋平氏)

 例えば、これまでの販売実績データから、2週間後の中古車の仕入れ価格を決定するといった、適正価格での値付けをサポートしているという。

 中古車の値付けは、「相場から高くても安くてもダメ」という重要なもので、これまで専門の査定士が売買実績と照らし合わせながら予測し決定していた。同社では、査定入力データや売買価格といった内部データに加え、オークションなど外部サイトの中古車価格情報と併せて機械学習でモデルを作成したという。この結果、これまで査定士の対応では、5%前後あった相場との値付けの誤差を、0.5%前後に抑えることに成功したと説明する。


内部データだけでなく外部データを用いて予測モデルを構築し、専門家(5%前後)の精度を大きく超えることに成功(DATUM STUDIO提供)

 このようにAIを実サービスに導入し、成果を上げることで業績を伸ばしている同社だが、好調の原因は何か。里氏は「機械学習などAIの需要を介した案件の需要が多く、案件のニーズが強い」点と「良い人材を採用している」点を挙げた。

 里氏や、同社の代表取締役社長である酒巻隆治氏は、機械学習を含めたデータ分析の領域で10年以上の実績を持ち、分析に関する書籍を多く出版するなど存在感があるため、引き合いが強いと話す。

 採用に関しては、里氏が統計言語Rの開発者コミュニティ「TokyoR」の主催者であることなどから、絶対数が少ない「腕に覚えのあるデータ分析官」を数多く自社に引き入れている。この採用力が、良質なサービス提供につながっているという。「他社で分析を頼んだがうまくいかなかったので、何とかしてほしいと依頼されることも多い」(里氏)

 学術界との連携も特長の一つだ。同社では、「AIアカデミックネット」と称して、機械学習などAIを専門とする、50人ほどの研究者とのネットワークを重視している。

 顧客から、人工知能に関する先端研究の話を聞きたいという要望が多いといい、この6月にはシンポジウムを開催した。

 シンポジウムでは、最新のAI研究や計算手法が紹介され、学術最先端の研究を実ビジネスに応用しようとしていることがうかがえる。

 具体的には、東京女子大学情報処理センターの浅川伸一が、ニューラルネットワークを複数用意し、対立する情報を互いに提供しあい、人工知能の教師なし学習を実現するための手法「ジェネラティヴ・アドヴァーサリアル・ネットワーク」(敵対的AI:GANs)を紹介。産業総合研究所 人工知能研究センターの赤穂昭太郎氏は、本質部分を抽出することで、少量のデータからでも知見を見いだせる計算手法「スパースモデリング」について解説した。

 さらに、早稲田大学高等研究所 准教授の田中宗氏は、「組み合わせ最適化問題」を量子力学の理論を利用して解くための汎用的な解法「量子アニーリング」について説明した。

 学術領域では知名度が高まりつつあるが、一般企業には普及がなされていない計算手法をユーザーに紹介し、最先端の知を取り入れている。こうした点も競合との差別化につながっているようだ。

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