販売生産計画システムの刷新で「変化への対応力」強化を目指すJFEスチール

新興国の旺盛な需要により変化の激しい市場へと変貌した鉄鋼業界は、原材料高騰と販売価格の変動によって厳しい状況にある。こうした市場環境の変化に対応するため、鉄鋼大手のJFEスチールは全社管理基盤の構築に踏み切った。

原材料価格の高騰と販売価格の変動に悩む鉄鋼業界

 長年、鉄鋼業界はロングテールビジネスといわれるほど安定したマーケットを保っていたが、近年は中国やインドなどの新興国が旺盛な需要とともに生産能力を急速に向上させ、最も変化の激しいマーケットへと変貌しつつある。1980年から1999年まで、7億トンから8億トンで推移していた世界の粗鋼生産は、2007年には13億5000万トンにまで拡大。2009年にはサブプライム問題の影響で下落したものの、2010年は再び12億トン以上に持ち直すだろうと予測されている。

 だが、世界の大手鉄鋼企業10社を合わせてもシェア30%程度で、業界は過当競争にある一方で、鉄鉱石や石炭などのサプライヤーや大口顧客である自動車メーカーなどは寡占化が進んでいる。この間に挟まれた鉄鋼業界は原材料価格の高騰と品質要求の多様化、販売価格の変動といった極めて厳しい状況にある。

 こうした急激な環境変化に対応するため、JFEスチールは世界でも類を見ない新たな販売生産計画システムの構築に乗り出した。

2ヶ月をかける利益計画立案に市場とのずれが

 2009年度の粗鋼生産量では世界第5位、日本国内では第2位の規模を誇るJFEスチールは、自動車外板用の高級鋼材や抗張力鋼板(ハイテン)などの高品質・高付加価値のハイエンド製品を強みとするほか、モーター・トランス用の高級電磁鋼板などでは世界でも数少ないフルラインナップメーカーとしても知られる。

 そんな同社が、これまで行ってきた鉄鋼の生産販売における計画管理業務は、2003年のJFEグループ発足当初に開発した旧システムを継続利用してきたことから、販売と生産部門がそれぞれ分散して情報を保有し、それらを手作業で付け合わせなければならないという課題を抱えていた。

 そのため、半年ごとに決定する利益計画(需要把握〜生産目標設定)の立案に約2ヶ月を要し、変化の激しい市場の要求とずれが生じていたほか、リーマンショック後の急激な景気後退局面では需要の急速な減少に在庫過剰を予測できず、工場の生産計画も大幅な見直しを迫られていた。

ビジネスプロセス改革を目的とした「J-Flessa?」

西川廣氏 「J-Flessa?は単なるシステム構築ではなくビジネスプロセス改革が目的」と語るJFEスチールの西川廣氏

 そうした課題を解決するため、2008年12月に新たな販売生産計画システム「J-Flessa?」(※)の構築プロジェクトが発足した。JFEスチールのシステム主監を務め、総責任者としてプロジェクトを先導した西川廣氏は次のように語る。

 「世界同時不況で投資予算も限られる中、優先順位の高い機能を切り分けることでJ-Flessa?の構想はスタートしました。それも単なるシステム構築ではなく、社内外のステークホルダーを巻き込んだビジネスプロセス改革が目的のため、適用するツールの選択は大きなチャレンジでした」

 J-Flessa?では主に3つのシステムを開発した。1つは、顧客企業とのコラボレーションや社内の物件管理の情報から将来の需要を効率良く収集する「需要把握システム」。2つ目は把握した需要情報と適正な在庫レベルを踏まえた販売計画を策定する「需要管理システム」。そして3つ目が生産能力に応じて販売計画を調整する「需給計画システム」である。

 中でも基軸となるのは2つ目の需要管理システムで、営業や商社から顧客の需要情報を取り込み、工場や物流基地からは生産情報・在庫情報を参照して共有することで、売り上げ管理や収益管理といった重要な業務をサポートする。その製品選択にあたっては、プロトタイプの検証にじっくりと時間を費やし、鉄鋼業界の業務との相性を慎重に検討した。

 その結果、検証作業に深く関与し、機能拡張で要求仕様に応じたJDAソフトウェア(当時はi2テクノロジーズ)の「Sales & Operations Management」(以下、S&OM)が選ばれた。また、需給計画システムにもJDAソフトウェアの「Supply Chain Planner」(SCP)が採用されている。

※J-Flessa?:(ジェイ・フレッサ・ワン:JFE Flexible Efficient Speedy Sales and operation management system)

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鉄鋼業界では珍しいパッケージ活用事例

新田哲氏 「J-Flessa?運用によって煩雑な業務をなくすと同時に全社での情報共有を進められた」と評価するJFEスチールの新田哲氏

 2009年11月にJ-Flessa?はカットオーバーした。プロジェクト発足から運用開始まで11ヶ月という超短期構築を実現した理由について西川氏は、「JFEスチールの中期IT計画で掲げた“個別に作らないシステム”のコンセプトに基づき、鉄鋼業界では珍しくパッケージを最大活用するとともにアドオンやカスタマイズを徹底的に排除した結果」だと話す。

 また、前述の3システムと、JFEスチール社内の受注・生産・流通をサポートする基幹システム「J-Smile」をサービスBUSで結び、SOA指向の柔軟で拡張性の高い情報連携基盤を作ったことも、今回の構築の大きなポイントとなっている。

 プロジェクトはJFEスチールのほか、JFEグループでシステム開発を担うJFEシステムズとエクサが参加し、JDAソフトウェアも専任の支援体制で臨んだ。

 JFEスチールのIT改革推進部で営業グループリーダー(部長)を務め、今回のプロジェクトリーダーとして活躍した新田哲氏は、「各社の技術力は申し分ないものの、短期構築のためコミュニケーションギャップがあればプロジェクトは頓挫すると考え、定例会や実務の打ち合わせにも関係各社の参加を願い、意志疎通と情報共有に務めました」と打ち明ける。

利益計画の策定期間が従来の半分に短縮

 J-Flessa?運用開始後、懸案だった利益計画の策定期間が従来の半分にまで短縮することが可能となった。それにより市場の変化に迅速に対応できるとともに、データの転記・手集計などの煩雑な作業をなくし、本来の業務に専念できる環境を作れたという。

 また、従来は縦割りに管理されていた販売・利益計画、生産コスト、生産計画といったデータが整合性の高い情報として全社で共有できるようになったことで、経営判断に有効な指標が提供可能になり、サプライチェーンコストの削減にも大きく寄与しているという。

 「旧来の販売生産計画システムは集計結果だけを回収していたため、顧客の需要情報が個人の端末に入ったまま共有されずに無駄になっていました。J-Flessa?は、Excelベースのインターフェースを使い需要情報を自由なメッシュでデータベースに取り込みかつ、必要な情報を必要なメッシュで簡単に集計することが可能なため、情報共有も容易になったほか、各種データの比較や計画業務・販売管理業務の効率化、精度向上にもつながっています」(新田氏)

本社と製鉄所とを結ぶ「J-Flessa?」も構築中

 今後JFEスチールは、J-Flessa?と国内4箇所の製鉄所の計画・予定情報とをつなぎ、販売管理と生産管理を統合した「J-Flessa?」の構築を進めることで、月次計画の精度向上や日次の実行調整を実現していく計画だ。

  また、さらなるビジネスサイクルの短期化に対応するサプライチェーンを実現するためのシステム構築も視野に入れているという。

  「今回のプロジェクトが成功した背景には、JDAソフトウェアがS&OMの機能拡張に尽力し、それを日本でいち早く導入できたことや、当社が目指したモジュール型システム構築構想に多大な技術協力で貢献してくれたことが大きいと考えています」と述べる西川氏は、S&OMをベースにした新たなビジネスモデルの構築に向け、これからもJDAソフトウェアの支援に期待をかけている。

http://japan.zdnet.com/extra/jda_201011/story/0,3800109576,20421677,00.htm
販売生産計画システムの刷新で「変化への対応力」強化を目指すJFEスチール
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