さて、視点をサンのSAPソリューションに戻そう。一般的に、SAPをはじめとする業務アプリケーションの行程においては、開発、検証、本番の3つの動作環境を用意して利用する。開発環境で作成したアプリケーションを検証環境において実動作とほぼ同様の環境でテストして、問題がないかを検証し、完成したアプリケーションを運用環境で実際のビジネスに利用するということだ。
ここで検証環境はデータの量なども含め、運用環境に近いことが望ましい。このため運用環境のコピーを作成し、それを検証環境として利用できれば理想的。だが稼働している運用環境のコピーを作成するにはシステムを数日停止する必要があった。従来、この作業は簡単には行えず、結局運用環境とは異なる検証環境を用意することがほとんどだった。
これに対しSolaris 10では、ZFSのファイルシステムスナップショットとSolaris Container環境のコピー機能を利用し、本番機を数分止めることで、理想的な検証環境を手に入れることが可能である。
「従来はDBのサイズに応じて数日から一週間ほどかかっていました。SolarisContainer と ZFS を使えば、移行はDBのサイズに依存せず10分程度で終わります。SAPの機動性をアップさせるには、この程度の時間でなければいけないと思っています。しかも、これらを実施するための追加ライセンスコストはかかりませんから、Solaris 10はきわめて投資効率が良いと言えるでしょう」(国谷氏)
以上のように、Solaris 10はSAPを利用したビジネス・アプリケーション環境でさまざまなメリットを発揮しているのがお分かりいただけたと思う。だがサンにはSolaris 10だけでなく、これらの業務システムをサポートする製品群が存在する。
前回紹介したSun Java System Identity Manager(IdM)はユーザーアカウント管理と権限管理を行うシステムだが、業務システムと連携することで、複数存在するアプリケーションのユーザーアカウントや権限を一括管理して適切に設定し、監査に堪えうる環境を作る。
たとえばSAPはもちろん、任意のベンダーの人事システムやメールシステムなどに対し、ユーザーアカウントの新規作成や異動による役職の変化にしたがって、自動的に適切なアクセス権限を各システムに設定することが可能だ。それにより、業務上不要なアプリケーションやデータにアクセスさせない仕組みを実現する。
もうひとつ業務システムの構築で便利なのがSun Java Composite Application Platform Suite ( Sun Java CAPS )だ。Sun Java CAPSはバラバラに存在していた業務アプリケーションに対し、ハブとなるSOA基盤を提供する。これはアプリケーションを連携させ、業務の効率化を行うためのものだ。
「このように複数の業務アプリケーションを連携し、ビジネスプロセスを可視化するような仕組みとしてはESBやSOA基盤という考え方と製品があります。それらは『まず理想のビジネスプロセス』を前提に、業務フローや業務アプリケーションを作成していく手法をとることがほとんどです。この場合、理想と現実のギャップが大きくなりやすく導入時に予想外の工数が発生しがちです。これがこの手のシステムの導入が進まない要因にもなっていると思います。しかし、Sun Java CAPSでは既存のシステムやビジネスプロセスをベースにそれを連携させるEAI(Enterprise Application Integration)的な考え方の上で構築を行いますので、非常に現実的なビジネスプロセスを短期間で実現できます。」(国谷氏)
Sun Java CAPSは既存のアプリケーション間でのデータ連係を行うハブとして機能する。従来のシステム連携では、連携するシステム同士をピアツーピアで接続し、それぞれのアプリケーションでデータのエクスポートとインポートの処理を組み込む必要があったため、アプリケーション同士の「結節点」は、膨大な数になっているのが課題だった。
これに対しSun Java CAPSでは、データの送り先にSun Java CAPSを指定すればSun Java CAPS側でデータの変換と送り先への送付を行うので、アプリケーション側での連携のための仕組みは最低限で済む。また、アプリケーションのバージョンアップやサーバのリプレースなどの際に従来の手法ではデータの送り元アプリケーション側にも送り先指定の変更などの作業が必要だが、Sun Java CAPSでは元のアプリケーションの変更は不要で、Sun Java CAPS側の設定変更だけで済む。
さらに、連携させるアプリケーション同士のバージョン依存も Sun Java CAPSが吸収するため、特に縦割り構造の組織間、システム間連携で威力を発揮しやすい。
また、これらのアプリケーション間の連携の設定記述はSun Java CAPSのEnterprise Designerと呼ばれるGUIで簡単に設定可能。さらにGUIで設定するだけでなく、それを記述するコードも同時に生成し画面上に表示されるため、コードを直接編集することもできる。このようにして編集した結果は当然GUI上にも反映されるため、双方を利用して素早く設定ができる。Sun Java CAPSを利用することで、既存の業務アプリケーションを活かしつつ、SAPはもちろん、人事やその他のシステムを連携し、高度なビジネスプロセスの構築を実現できる。
日本版SOX法などビジネスプロセスのIT化への要求が高まっている今、これらのサンの製品群は効率よく業務アプリケーションを運用し、ビジネスプロセスの構築を行う手助けとなってくれるだろう。
今回、Solaris 10がSAPソリューションにいかに適しているかに始まり、業務アプリケーションの連携、ひいては業務フローの見える化がもたらす内部統制まで拡大したが、それらを実現させるのはSolaris 10の堅牢性に関する確かな実績と運用性の高さ。経営者には、こうした約束された『投資効果』でソリューションを検討できる高い視点と広い視野が求められていると言えるだろう。