YMOと時代を支えたシンセサイザーアーティスト松武秀樹--音楽業界のこれからを語る

松永 エリック・匡史(プライスウォーターハウスクーパース)

2013-10-07 07:30

音楽メディアに何が起こっているのか

 Napster問題から10年。違法性を指摘された当時とは異なり、収益をレコード会社とシェアする事によって合法的に楽しめる時代になった。だが懸念はある。イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)と時代を支えたシンセサイザーアーティスト松武秀樹氏に話を聞く。


松永(以下Eric) 音楽分野ではPtoPで波紋を広げたNapster(1999~2003)から10年が経ちました。当時のPtoPサービスはファイル共有ソフトなどでアップロード者が違法に音楽ファイルをアップロードしていたため、無料とはいえダウンロードして楽しむ事自体が違法行為でした。しかし新しい時代になりSpotifyやGroovesharkのように収益をレコード会社とシェアする事によって合法的に無料で音楽を楽しめる時代になったのです。

 1990年代にDavid Bowieが「音楽はそのうち水になる」と宣言したが、まさに今彼の言ったとおりの状況になっています。音楽が水を飲むように簡単に聞けるようになりました。しかし、その結果として、われわれは本当に音楽を楽しめるようになったのでしょうか?

YMOの多くのアルバム・レコーディングや世界ツアーにマニピュレーターとして参加し、4人目のYMOと呼ばれた(Wikipedia)という松武氏
YMOの多くのアルバム・レコーディングや世界ツアーにマニピュレーターとして参加し、4人目のYMOと呼ばれた(Wikipedia)という松武氏

松武氏 Spotifyは日本にはそぐわないと思います。まだビジネスモデルが全然できていない。また、音楽業界の中でワクワクしたものをやろうとしている人がいないのが問題でしょう。日本は現場の権利を重んじすぎる傾向があって、まずはそれが原因だと考えています。またアーティストへお金を還元するシステムができてない。

 その点ではSpotifyなどはアーティストにかなりの金額を戻そうとしていますね。他にも、違法配信が全ての元凶だとは思っていませんが、音楽がそのものが魅了的なものになっていない、という状況に危機感を持っています。やはり魅力がないのではないか。クールジャパンなどで政府が資金援助をしていろいろやろうとしているが、それは違うのではないか。内需の拡大というか、日本の文化がよければ自然に拡大していくものなので、政府が支援してやることでではないと思っているんです。JASRAC(日本音楽著作権協会)も含め、関連企業や団体が協力し一体となってビジネスモデルを作っていく必要があるでしょう。日本の音楽業界は今鎖国状態で、その状態が開放されればクールジャパンとして自然に外に広がっていくでしょう。

YMOがなぜ新しい時代を創ってきたのか

松武氏 YMOはクールジャパンのような政府の援助を受けることもなく、自分たちで費用を負担しつつ取り組んで、気がついたら世界中で火がついて、人気が広がりました。あのように人気が広がった理由は何だったのか考えてみました。YMOの人気が拡大した一番の理由は、プロデューサーが非常に優秀だったからでしょうか。「頭クラクラ、みぞおちワクワク、下半身モヤモヤ」という標語を掲げていましたね(笑)。

 全世界で400万枚売るんだと言っていたのですが、本当にあっという間に売れてしまった。どうしてそうなったかは、YMOのメンバー3人(坂本龍一氏、細野晴臣氏、高橋幸宏氏)も分からないと言っていました。何か魅力のある動力源があったのだと思います。私はずっとシンセサイザーをやっていたので、特に新しいものをやったという意識はないのですが、当時は自動演奏させる発想そのものがなかったんです。もしかしたら自動演奏に関して日本人ならではの技術力が組み合わさったことが要因の一つかもしれません。

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