「情報セキュリティには“航空管制”システムが必要」:米RSA

田中好伸(編集部)

2010-09-09 20:04

 「情報セキュリティの状況は複雑すぎる。空港での航空管制システムのように特定の人物で運営・管理されるように全体的に、一元的に管理する必要がある」――。9月9日から開催されているセキュリティイベント「RSA Conference Japan 2010」の基調講演で、米EMCのセキュリティ部門であるRSAのプレジデントを務めるArt Coviello氏(EMCのエグゼクティブバイスプレジデントを兼務)は、このように主張している。

 現在、1日あたり数十万もの航空機が世界を飛び交っているとされるが、Coviello氏は、空港でその離発着をつかさどる航空管制官は、離発着する航空機の重要度やその相関関係などを把握しているとして、航空管制システムは航空機をはじめとして滑走路の状況など複雑な関係を瞬時に全体的に、そして一元的に把握できていると説明。そうした仕組みが情報セキュリティの世界にも必要だとしている。

Art Coviello氏 米RSAプレジデントのArt Coviello氏

 情報セキュリティ基盤を構成する要素として、ユーザーのアイデンティティを管理する製品、情報を保護する製品、IT基盤の整合性維持のための製品、限定された範囲を対象にしたセキュリティ管理製品などがあるが、Coviello氏は、その多くが連携せずに個別に動作しているのが現状と指摘。その一方で、ITの世界は仮想化技術やクラウドコンピューティングなどの台頭で過去10年間で大きな成長と変化をしているのに対して、情報セキュリティに対するアプローチは、そうした根本的な変化に追随できていないとみている。

 ITシステムの複雑化というのは、システムが取り扱う情報の量が増加しているだけでなく、情報の“流動性”も増しているのが原因と同氏は指摘する。ここで言う流動性とは、情報が常に移動し、変化し、不規則に分散している状況を指している。

 たとえば企業の財務情報は、基幹系システムのデータベースに蓄積されているが、そのデータはバックアップ用テープやディスクに保存される。しかし、財務情報は従業員のPCにも保存されると同時に、従業員同士で交換されたり、インスタントメッセージング(IM)で渡されたり、メールで流されたり、ファイルサーバにも保存されたりする。従業員内部だけではない。契約社員やパートナー企業、顧客企業にも流れる可能性も指摘される。こうした例を挙げてCoviello氏は、「情報は無秩序に拡大するとともに、それを取り扱うユーザーもまた無秩序に拡大している」と情報の流動性の実態を表現する。

 Coviello氏は、この情報の流動性という課題について、IT基盤そのものが変化していることも原因と説明する。データにアクセスするエンドポイントとして既存のPCに加えて、モバイル端末の数や種類も増加しているからだ。

 複雑化は現在さらに進行しつつある。仮想化技術でOSやデータベース、アプリケーション、データまでといった形でスタックが1つのファイルで完結できるようになっており、さらには、そのスタックがクラウド環境に移行しつつあるからだ。

 ITシステムの複雑性という課題が現実に存在し、情報やアイデンティティの数が増加して、IT基盤は変化、拡大を続けているという現在の状況に対して、企業はどう取り組むべきかとCoviello氏は投げかける。

 Coviello氏は、現在のITシステムでの情報セキュリティの取り組みは、ポイント別のソリューションであることが問題と指摘する。マルウェアならマルウェア対策、情報漏洩に対してはデータ損失防止(DLP)というように個別に製品が使用されていることが負担になっていると指摘する。

 このため、IT部門はさまざまなベンダーの製品を管理せざるを得なくなっており、ポリシーを管理する場所が無数にあり、同じポリシーを違う人が違うやり方で適用することも少なくないとしている。また、何が良くて何が悪いのかを判断するツールもさまざまに存在し、ポリシーを執行するポイントも数多くなるという。このことからログやレポート、ダッシュボードが生成されるポイントも多数存在。こうしたアプローチではコストがかかるだけでなく、効果も低くなると指摘している。

 情報セキュリティの管理は複雑になっているが、法令順守(コンプライアンス)の負担も大きくなっているとCoviello氏は説明する。バックアップ用テープの紛失、データベースに蓄積されるデータの窃盗、ノートPCの盗難や紛失、というように多種多様なセキュリティ事故(インシデント)も増加しているからだ。

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