東日本大震災の被害は関東以北のみと看做しがちであるが、さにあらず。高知新聞によれば、地震の津波は高知県をも襲い、カンパチの養殖生け簀を破壊して、その海産資源は自然に帰することとなった。そして、それに目をつけた釣り人がカンパチ狙いで釣りをするという悪行を働いている。
一方で受難の釣り人もいる。「Security NEXT」誌によれば、釣り具のオンラインショッピングサイト「フィッシングタックルオンライン」では、不正アクセスによって釣り人のクレジットカード情報が流出した。釣り道楽にも困難は多い。
同サイトの運営会社は今回の事故の対策として、決済方法を「PayPal」へ変更したという。これは、買い物客がPayPalに一度クレジットカード情報を登録すれば、買い物の都度クレジットカード情報を入力する必要がなくなり、個人情報の流出リスクを最小限に抑えることができるからだ。
PayPalと言えば、米国ではeBay傘下にてオンラインショッピングの決済で高いシェアを握る。更には送金サービスも手掛けることで銀行の手数料ビジネスを侵食する存在となっている。日本においては2010年4月に資金決済法が改正され、銀行ではない一般事業会社でも送金サービスを提供することが可能となった。
ただ、国内送金は、もともと手数料が数百円程度で、かつ一定の条件を満たせば無料になることもあるので、PayPalを含めて本格参入に踏み切った事業会社は多くない。一方で、海外送金は、銀行手数料がもともと数千円と一回り数字が大きく、今後も拡大が見込めるとあって参入企業が多い。グローバル化の流れの中、世界的に見ても労働者送金市場は拡大傾向にあり、世界銀行の予測(PDF)では、2007年に2780億ドルであった送金額は、2012年までに3740億ドルに拡大するという。
現時点で資金移動業者として財務局に登録した業者は全10社(PDF)で、そのほとんどが海外送金狙いと見て良いだろう。3月22日に始まったセブン銀行のサービスは、米Western Unionとの提携により実現したもので、セブン銀行のATMから海外のWestern Unionの代理店を通じて最短数分で送金が完了する。
新規参入の海外送金サービスが従来の海外送金サービスと大きく違うのは、送金手数料が送金額に応じた従量制となっており、労働者送金の特徴である少額多頻度の送金ニーズにマッチすることである。セブン銀行の場合であれば、送金手数料は990円(送金額1万円以下の場合)からであり、同額を普通の銀行から送金するのと比べると遥かに安い。
セブン銀行以外にも、JTBやSBIレミットなど複数のプレーヤーが参入済み、あるいは新規参入を検討している状態にある。釣り人に海外送金ニーズはあまりないかもしれないが、こうした規制緩和によるサービスイノベーションが消費者の利便性を向上させるのは良いことだ。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。