iPhoneの日本上陸を前にNECとシャープが相次いで携帯事業の方針を説明した。どうしてもiPhoneを獲得したソフトバンクと、可能性を探っているNTTドコモとKDDIに話題が集中しがちだが、迎え撃つのはなにもキャリアだけではない。端末メーカーとて同じなのだ。ジャーナリストの大河原克行氏が各社を取材し、発言をまとめた。
端末メーカーの反応は
WWDC 2008でAppleのCEO、Steve Jobs氏がiPhone 3Gを発表した今週、奇しくも日本ではNECが9日に、シャープが12日に相次いで携帯電話事業の方針説明を行った。
実はこの両社、携帯電話事業の方針を説明することにあまり例がない。対外的には両社とも、携帯電話事業の担当役員の変更や新製品投入を理由としているが、日本でのiPhone発表が事前に見込まれていた週だけに、迎え撃つ国産メーカーがiPhone独占報道に一矢報いる狙いがあったのは明らかだ。
当然、会見場でもiPhoneに関するコメントを求める質問が出た。
iPhoneの関心が高まれば、自社端末のUI・機能にも注目が集まる
国内トップシェアを誇るシャープの通信システム事業本部長 常務取締役 長谷川祥典氏は、「iPhoneが国内市場にも登場することで、事業に対してはなんらかの影響はあるだろう。迎え撃つという気持ちはある」と語りながらも、「新たなデバイスが登場したことで、市場全体が盛り上がる効果が出てくる。また、ユーザーが携帯電話のユーザーインタフェースに対して関心を持つようになるだろう。当社が提供しているタッチパネルや光タッチクルーザーといった機能に注目が高まることを期待している」と自社端末への自身を垣間見せている。
だがその一方で「日本の携帯電話の文化として、メールを使う文化がある。ユーザーにとってもメールが使いやすいかどうかがケータイを選ぶポイントになっている。そのため、日本ではキーボードが必須である。これまで当社が培ってきたユーザーインタフェースと、進化した新たなインタフェース技術を組み合わせることで、iPhoneには太刀打ちできると考えている。大丈夫だろう」などと話した。
iPhoneとは一線を画した使いやすさを追求する
NECで携帯電話事業を統括する取締役執行役員専務の大武章人氏は、「日本には片手で簡単操作するという文化が定着しており、iPhoneのような両手で持って使うという利用は主流ではないだろう」と、iPhoneのインタフェースに疑問を投げかける。
携帯電話が最も操作される空間の一つ「電車」での利用シーンを見ても、吊革に手をやりながら片手でメールを打つのが日本では一般的。だが、吊革を持ちながらiPhone操作するのは難しい。
そのため、NECではiPhoneの広がりには限界があると見ているのだ。
「NECでは、あくまでも片手で簡単操作できる使いやすさを追求していく。さらにMI(モバイル・インテリジェント)エンジンを利用することで、ユーザーの行動や操作特性を学習して、最適な操作、機能、サービスを提供できるようにしたい」と、iPhoneとは一線を画した使いやすさを追求していく姿勢を示した。
「iPhone独壇場の時代は終わった」と語るイー・モバイル 千本会長
一方、キャリア側もiPhoneに対してコメントを発表している。
iPhone獲得戦でソフトバンクに先行したNTTドコモは、「残念であり、今後、発売に向けて検討していく」とコメントするに留まった。KDDIもiPhone正式発表前日の会見ということもあり、「スマートフォンは然るべきタイミングで投入したい」と語るに留めていたが、こうしたキャリアのなかで痛烈なコメントを発したのはイー・モバイルだ。
イー・モバイルは6月10日、HTC製のスマートフォンを新たに投入すると発表。これを受けて、同社代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏は、「iPhoneの独壇場の時代は終わった」と発言。タッチパネル操作による端末が今後、数多く投入される可能性を示唆した。
さらに「スマートフォンではiPhoneよりも多くの販売実績を持つHTCがタッチパネル操作が可能な端末を発売したことで、iPhoneの優位性は限定的なものになる」などと語り、スライド式のデザインにしたことで片手でも操作できる優位性などを訴求した。
また、iPhoneが採用しているレベニューシェアによるビジネスモデルについても、「その仕組みではオペレーターには利益が生まれず、受け入れ難いもの。今後、携帯電話業界に生存するかどうかは疑問である。世界最大シェアを誇るノキアでさえ採用していない仕組み」と、アップルの手法に疑問を呈した。
iPhoneの発売によってスマートフォンに注目が集まるのは確か。日本で遅れていたスマートフォンビジネスを巡る争いが熾烈化するのは間違いないが、それと同時に各社の舌戦も激しくなりそうだ。