携帯事業者にとって異端児のiPhoneをソフトバンクは採算度外視で獲得したのか?「iPhoneが日本に上陸する日」の著者で、日ごろから海外の携帯電話市場をウォッチしている香港在住の携帯ジャーナリスト山根康宏氏が考える。
絵文字が無いと使いものにならない?
日本でもソフトバンクからiPhoneが販売されることが決まり、次の焦点はiPhone 3Gが日本で売れるか?日本人に受け入れられるのか?と言った点に移りつつある。
日本の携帯電話は海外より優れた機能を搭載しているが、日本独自の規格や文化も多い。ワンセグ、おサイフ、絵文字など、これらは海外ではまだあまり普及が進んでいないものだ。一方のiPhoneはAppleが全世界で全く同じハードウェアを販売する。日本向けにハードをカスタマイズすることはまず考えにくく、日本固有のシステムには非対応のまま販売されるだろう。
このためiPhone 3Gでは、例えば絵文字を利用できないかもしれない。これに不満やストレスを感じるユーザーは多いだろう。その一方でiPhoneの使いやすいインタフェースや音楽・動画再生機能に惚れ込んでしまえば、絵文字が使えるかどうかといったことなどさして重要ではないと考えるユーザーも出てくるはずだ。
ワンセグにしてもiPhoneに動画を入れておくことで有る程度代替できるだろう。おサイフ機能はSuicaなどの従来からあるプラスチックカードを持てばなんとかなる。たしかに「なんでも入り」の日本の携帯よりは若干不便になるが、それに慣れてしまうユーザーも今後増えてくるのではないだろうか。
さらにiPhoneは通信事業者の固有サービスを利用しない。ソフトバンクの回線こそ使うものの、サービスはAppleやインターネット上の独立した企業が提供するものを、ユーザーが個別に契約して利用する。携帯で利用するコンテンツの概念すらもiPhoneは変えてしまうのだ。
ソフトバンクの強み
ではソフトバンクにとって、このような端末は自社ビジネスを脅かす存在にならないのだろうか?
たしかにソフトバンクモバイルだけを見れば、携帯コンテンツ収入の得られないiPhoneは異端児だ。しかしソフトバンクグループ全体としてみれば、iPhone 3GでYahooにアクセスし、Yahoo!オークションやYahoo!ショッピングを利用してもらえれば結果として収益は上がる。
すなわちiPhoneを携帯電話ではなくインターネット端末だと考えれば、ソフトバンクにとっては十分魅力的な製品である。これはインターネット全体でビジネスをしている同社の大きな強みだ。
もちろん、今までの日本の携帯電話やサービスを利用し続けたいと考える消費者も多いだろう。しかし重要なのは、消費者が選択肢を得たということだ。
日本の携帯電話は事業者の提供するサービスを簡単に利用できるが、インターネット上のサービスを利用するにはまだまだ敷居が高い(これはどちらのサービスが優れているかという議論ではない)。インターネットサービスを手軽に利用できるiPhoneは、日本の携帯電話のあり方に一石を投じる製品になりそうである。