Christineは、中規模の製造業の会社で最高情報責任者(CIO)を務めている。彼女は18カ月間のスケジュールで、200万ドル規模のSAPの拡張プロジェクトを進めて1年経ったところだが、控えめに言っても、物事は計画通りには進んでいない。実際のところ、本当の問題は、このプロジェクトが今後も絶対に計画通りには進まないことが分かっているということだ。Christineは、四半期ごとに開かれる運営委員会で、悪いニュースを報告することになり、思いを巡らしている。
「SAPの連中がこのシステムに数多くの新モジュールを追加するという話をするのを、私が聞き入れてしまったことが信じられない。ソフトウェアがその段階に到っていないことを知っているべきだった。連中はそのソフトウェアを企業買収で手に入れたばかりなのだから、まだSAPのコアモジュールに新しいコードを統合する作業の途中なのは分かりきっていた。自分に蹴りを入れてやりたい。もっと分かっているべきだった。買収後に何もかもうまくいくわけなんかないのに」
「このプロジェクトは簡単なもので、顧客のニーズに合わせるための単純な統合作業のはずだった。それがどうだろう。6カ月も延びる上に、費用もさらに200万ドルかかるとは」
「問題が起こっていて、このプロジェクトの中止も検討しなくてはいけないなんて話、役員たちにどう話せばいいの」
どこかで聞いたような話だろう。
上級のITリーダーなら、みなこのような困難にぶつかっているはずだ。そんなときには、もしクビにならなかったとしても、昇級やボーナスは犠牲になったはずだ。しかし最悪なことは、他の役員からの信用に傷が付いてしまうことだ。
では、このような状況をどう扱ったらいいのだろうか。自分のキャリアを台無しにせずに、大型プロジェクトを止めるにはどうしたらいいだろう。
Christineの問題を解決する前に、まずは彼女自身と彼女の置かれている状況について詳しく見てみよう。
確かに、彼女のプロジェクトには問題があるが、ITリーダーの成功とは、決してプロジェクトを失敗させないということだろうか?大企業のITリーダーが、1度も悪いニュースを伝えずに済むなどということが、本当にあり得るだろうか?考えにくいことだ。
ITプロジェクトは、ビジネスを支えるために、常により高いレベルを目指している。したがって、中には失敗する場合も出てくる。販売部門やマーケティングの部門も、すべての場面で100%成功したなどと言うことはできないはずだ。もし、影響力のあるITリーダーになりたいのなら、ただ問題のあるプロジェクトに対処するだけでなく、それらのプロジェクトを利用して、自らのリーダーシップを示し、他の役員に対する政治的資本を作り上げる方法についても知っておいた方がいい。
Christineはいくつかの理由で苦境に立たされているが、これらはどれもプロジェクトの詳細に関わるものではない。
- Christineは自分の仕事と評判について気にしている。彼女は個人的な責任を回避しようとしておらず、会社のすべてのITプロジェクトに対して同じように個人的な責任を感じている。しかしこれは問題だ。彼女はすべてのITプロジェクトに個人的な責任があると考えている(そしてそう振る舞っている)が、これは誤りだ。(ここでは、「職務的に」ではなく「個人的に」と書いた。この2つには大きな違いがある)
- Christineは一流のITプロジェクトマネージャーだ。彼女が管理するプロジェクトは失敗しない。このため、プロジェクトの成功に備える方法は知っているが、失敗に備える方法についてはまったく知らない。念のために書いておくが、これは彼女の失敗ではなく、プロジェクトの失敗だ。
- Christineはビジョンを持った人物であり、プロジェクトが会社にもたらす素晴らしい効果を理解し、その可能性について前向きに捉えている。不幸なことに、この前向きさによって、Chrsitine自身がこのプロジェクトの提唱者であり支持者になってしまったため、自分の顔を潰さずにプロジェクトを中止するのが難しくなっている。