会社のメールアドレス宛に送られて来たメールを、社外でも確認できるようにウェブメールサービスへ転送する。仕事上のパートナーとSNSやIM、SkypeなどのVoIPツールを使ってコミュニケーションをとる。個人所有のモバイルデバイスを使って、会社内のサイトにアクセスする……。
本来、コンシューマー向けに提供されてきた技術や製品、サービスが、さまざまな形でビジネスの場へ持ち込まれるケースが増えている。そして、その現象はしばしば、会社によって「管理する」ことを前提に用意された企業ITとの摩擦を引き起こす。
こうしたケースを含めて、コンシューマーのマーケットがビジネスマーケットに対して、技術やコストなどのさまざまな面で影響を与える状況を、リサーチ会社のGartnerでは「コンシュマライゼーション(Consumerization)」と呼んでいる。
7月18日、19日に東京・品川で開催された「ガートナーSOAサミット 2007」では、「Web 2.0とITのコンシュマライゼーションがビジネスに与えるインパクト」と題した報道関係者向けセッションが行われた。スピーカーであるGartner Researchバイスプレジデント兼ガートナーフェローのDavid Smith氏は、「ITのコンシュマライゼーションは、今後5年間で最も重要なトレンドになると見ている」と述べ、その潮流を前向きに利用すべきだと訴えた。
Smith氏によれば、Gartnerでは「Web 2.0」を「特定の技術や現象を示す言葉でなく、“無視と再注目”の過程を経た今日のウェブに対するラベル」であると定義しており、その言葉自体にはあまりとらわれていないという。一方で、コンシューマーマーケットに投入される技術が、ウェブを触媒として普及するというという点で、「ITコンシューマライゼーション」と「Web 2.0」は、相互作用のある不可分な関係であるとする。
こうしたコンシューマーマーケットの技術は現在、「管理」することを前提としたビジネスITにとって「やっかいなもの」ととらえられる傾向が強い。しかし、逆にそれを不可避なものとして利用し、ビジネスにおけるイノベーションの機会とすべきであるとSmith氏は指摘する。
「コンシューマーITは、顧客行動、ワークスタイル、IT基盤を変革し、これまでのルールの変更を迫るものとなる。“コンシュマライゼーション”は、そうした技術を単に使うことだけを意味するのではなく、技術に対する姿勢そのものを指す言葉である」(Smith氏)
今日、コンシューマーITは、企業ITに対してあらゆる「プレッシャー」をかけている状況にあるという。このプレッシャーは、製品からサービスへの移行、グローバライゼーション、企業活動の透明性などを求める「ビジネス的側面」に加え、ウェブサイトのプラットフォーム化や3Dグラフィックの標準化といった「技術的側面」、そして「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる、デジタル世界を「当たり前のもの」として社会生活を営む若い世代の興隆といった「社会的側面」などの広範な分野から与えられるものだ。
こうしたプレッシャーが飽和したとき、企業内に「ITの内乱とでも呼ぶべき状態」が生まれるとSmith氏は指摘する。「管理」「計画」「指示」をベースとする従来の企業ITは、コンシューマーITに対する柔軟さ、(指示ではない)ガイドを与えること、従来の枠組みの中では想定されない事態への対応などを求められることになる。
たとえば、企業に対してITサポートを提供する部隊であれば、従来の顧客である「企業の所有するPCと、その上で動く企業所有のアプリケーション環境」だけでなく、従業員が所有するPCやモバイルデバイス、リモートホスト、仮想マシン、SaaSといった環境へ、そのサポートの対象を広げていくといったことが必要になってくる。
もちろん、これは、そうしたコンシューマーITの使用を無制限に認めるという意味ではない。「簡単なルール」を設けることによって、コンシューマーITと企業ITの間の妥協点を設定することがポイントになる。それはたとえば、認証やアクセス管理、ネットワークアクセス管理、デジタル権利管理の導入、コンテンツフィルタリングの実施、エンドポイントセキュリティの強化、企業IT内での行動査察、監査を実施するといったものである。
Gartner Reserchバイスプレジデント兼ガートナーフェローのDavid Smith氏企業ITにおける従来の枠組みを崩し、新たな環境とルールを生み出す動きには、それなりのコストやリスクが伴う。だがSmith氏は「ITのコンシュマライゼーションが企業のITやインフラに対して影響を与えている現実を否定せず、不可避なものとして受け入れること」が重要だと強調する。実際の運用にあたって、ユーザー教育や現実的なアプローチを行うことは十分に可能であり、こうした状況に「待ち」ではなく「前向き」な姿勢で対処することが必要であるという。Gartnerでは、この動きはまだ端緒についたばかりであり、今後さらに加速していくと見ている。
「企業が今後も生産性の向上率を維持していくにあたっては、新たなテクノロジに当たり前のように対応できる人材が必要となるはず。そうした働き手の“期待値を満たす”職場環境を持っていることも、企業にとっては同様に不可欠な要素となる」(Smith氏)
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