第13回 EAとTOGAF(The Open Group Architecture Framework)

相原慎哉(みずほ情報総研)

2005-07-01 08:00

●TOGAFとは?

 TOGAF (The Open Group Architecture Framework)は、民間のIT標準化団体であるThe Open Groupによって作成されているEAフレームワークである。公表されている他のEAフレームワークは各国政府によるものがほとんどで、TOGAFのように非営利の民間団体によるものは非常に珍しく、広く知られている例としては唯一といえる。TOGAFはEAの構築・活用の手法や方法論についてのガイドブックのようなものである。何を検討する必要があるのか、作業をどのような流れに沿って進めるのか、などの実践のためのノウハウが豊富に記載されている。 TOGAFについての知識を持ったアーキテクトを認定するCertified Architects制度も実施されており、日本からも既に41人が認定されている。

●TOGAFの構成要素

 TOGAF のドキュメントは、大きく分けて3つの要素から構成されている。EA構築のための作業手順マニュアルとでもいうべき「アーキテクチャ構築手法(ADM)」、アーキテクチャを構成するための様々な材料を集積した「エンタープライズコンティニュアム」、そしてADMを使うのに役に立つ関連情報を集積した「リソースベース」の3つである。中でも重要なのはADMで、TOGAFの中核を成している。

 ADM は、エンタープライズコンティニュアムに記述された一般的なアーキテクチャ構成要素の素材をもとにして、組織ごとのEAを構築するための手順を詳細に解説している。具体的には、準備段階フェーズから作業を開始して、AからHまでの8つのフェーズからなるサイクルを繰り返すことで構築を進める。繰り返すたびに、EAのカバーする対象組織領域の変更、詳細さの度合いの変更、計画対象期間の変更などが行われ、EAはその組織の置かれた状況にあった、より適切なものになっていく。

●TOGAFの特徴

 TOGAF は産業界の合意に基づく標準である。特定のベンダーあるいは政府機関によってではなく、ユーザー主導のオープンな手順を通じて開発されてきた。結果として汎用性が高く、企業向けのフレームワークとなっている。また、多くのフレームワークが成果物に重点を置いているのに対して、EAを構築する手順・手法に重点が置かれているのも大きな特徴である。アーキテクチャ構築手法を備えたフレームワークは少なく、TOGAFのADMはその中でも詳細で完成度の高いものと評価されている。

 一方で、米国国防省のフレームワーク「DODAF」にあるような成果物についての具体的な記述や、ザックマンフレームワークのような全体像を把握できる概念図は用意されていない。これを補うためもあってか、TOGAFでは他のフレームワークとの連携にも力を入れており、実際にフレームワークを併用したEA構築事例も報告されている。

 10 年間にわたって継続的に改善が続けられてきたこともTOGAFの特徴である。1995年の初版公開以来、ほぼ毎年新バージョンが公表され、利用者の意見やニーズの反映が行われてきた。このように長期にわたって改良が続けられてきたフレームワークは他に存在しない。長期の改良によって、多くの実践的なノウハウが蓄積されてきた。

 最近では、DODAFとの連携可能性やオブジェクトマネジメントグループのモデル駆動型アーキテクチャ(MDA)との連携可能性の検討が進められている。特に、MDAはソフトウェアの設計図(モデル)から自動的にソフトウェアを作成することを可能にしようとする考え方であり、TOGAFとMDAの連携が実現すれば、EA構築からシステム開発までの一貫性がこれまで以上に高まることが期待される。これによって、さらにTOGAFの活用範囲は広がることになる。 TOGAFは今後注目すべきEAフレームワークのひとつだといえるだろう。

(みずほ情報総研 システムコンサルティング部 相原 慎哉)

※本稿は、みずほ情報総研が2005年6月7日に発表したものです。

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