デジタルオーディオプレイヤーとして高いシェアを誇るアップルコンピュータのiPodシリーズ。このiPodが、一般消費者の枠を越え、教育現場で活用されるケースが増えている。
今回の特集では、世界で最初にiPodを授業に導入した大阪女学院大学と、情報システム教育に力を入れるため導入に至った名古屋商科大学、また通信教育にiPodを導入した東京リーガルマインドの3校に焦点を当て、ユーザーの音楽環境だけでなく、教育環境にも変化を与えたiPodの威力を探る。
世界初のiPod導入校
世界で最初にiPodを導入した大学、それは英語教育に熱心なことで知られる大阪女学院だ。同学院では2004年4月、これまでの短期大学に加えて4年制大学を開校した。これを機に、短期大学生を含む新入生全員にiPodを配布、授業と連動したiPodの利用を開始することとなった。いわば、「4年制大学1期生=iPod1期生」というわけだ。
1期生に配布されたのは、15Gタイプの第3世代iPodだ。入学式のサプライズとしてiPodを受け取った学生の反応は、「これは何だろう?」というものだった。当時iPodは、まだ世間に広く知られていなかったためだ。iPod1期生の大阪女学院大学 国際・英語学部2年生 出口裕子さんは、「iPodのことは全く知らなかった。試しに聞いてみると、すでに英語の教材が入っていた」と言う。
iPod導入を積極的に推進する大阪女学院大学 国際・英語学部 教授の加藤映子氏 |
iPod導入計画に深く関わった大阪女学院大学 国際・英語学部 教授で英語教育企画・推進委員長を務める加藤映子氏は、「音楽プレイヤーとして使われていたiPodだが、英語のリスニング教材としても可能性があると感じた」と、導入の背景について語る。
ハードディスク搭載の音楽プレイヤーはiPod以外にも存在していた。そこでiPodをあえて選択したのは、「マニュアルがなくてもすぐに利用できるほど、操作が簡単だったためだ」と加藤氏。「大阪女学院では、1991年より語学学習のためにMacを導入しているが、この時にも使いやすさを重視した。やはりコンピュータにしても音楽プレイヤーにしても、使い方を把握するために時間がかかるようでは、本来の英語力アップという目的達成以前のハードルが高くなってしまう」(加藤氏)
また、外付けハードディスクとして宿題の論文を持ち歩くことができる点や、メモ機能を利用して、移動時間に論文の見直しがiPodの画面でできること、さらには若い女子大学生が持ち歩くという観点から「デザインが良かったことも選択のポイントとなった」と加藤氏は言う。
iPodに搭載されたコンテンツ
具体的にiPodに入っているコンテンツとしては、まず入学試験で利用したリスニング問題がある。入学試験では試験用にゆっくり読まれていた英語だが、それを自然な速さで録音しなおした。これにより学生は、試験時の実力を再確認することができる。
また、これまで英文法の授業で配布されていた英会話CDの内容をすべてiPodに入れた。授業は、学生がCDを聞いていることを前提に進められるが、「正直自宅でCDを聞く時間がないという学生が多かった。それが、iPodにCDの内容を入れたことで、確実に内容を聞いている学生が増え、授業がスムーズに進むようになった」と加藤氏。
さらに、英語の発音やリスニングなども「ほんの数カ月で学生のパフォーマンスが格段に向上した」という。加藤氏は、「語学の教材に音声教材はつきものだ。通学途中にも教材が聞けるため、学生の勉強する時間が増えた」として、iPod導入の効果について語った。
同大学で異文化コミュニケーションなどの授業を担当するJerrod Hansen氏は、英語での授業を行っているが、iPodの録音機能を使って授業を録音し、研究室にデータを保管している。Hansen氏は、「学生が授業内容をいつでもダウンロードできるようにした。授業の復習にデータを活用してもらいたい」と話す。