サムスン電子など複数のテレビメーカーは、消費者が液晶テレビに対して慢性的に感じている苛立ちを軽減することに取り組んでいる。その苛立ちの原因は、画面の「ぼやけ」だ。
一般的な液晶テレビのリフレッシュレートは60Hzだが、新技術を用いると、100Hz〜120Hz(1秒間に100回〜120回画面を再描画)まで向上することができる。このリフレッシュレートが倍増すれば、事実上1秒間の描画回数が倍増するため、人間の目から見て、より滑らかな映像となる。動き補償フレーム補間(MCFI)と呼ばれるこの技術は、最近、高性能テレビに使用され始めたばかりだ。
映像の精度を上げるために加えられる画像は、同じ画像の繰り返しではなく、連続する画像の間に合わせて新しく作られる。このようにして、テレビ内部のマイクロプロセッサは、映像内に存在しないフレームを仮想的に作りだし、挿入する。
「動画の画質にかかわる問題は、まさに液晶テレビの歴史そのものだ」と語るのは、サムスン電子のLCD部門のアドバンスドテクノロジ担当バイスプレジデントBrian Berkeley氏だ。同氏は、リフレッシュレートの向上だけでは、画像のぼやけ問題は解消されないと指摘する。
調査会社iSuppliのアナリストSweta Dash氏は、他のテレビメーカーもサムスン電子に追随する可能性が高いと見ている。たしかに、画面のぼやけは番組を制作する上で大した問題にならないケースが多い。しかし、スポーツ番組の製作者や視聴者にとっては問題だ。スポーツファンはテレビメーカーにとって、高級テレビを積極的に購入してくれる大事な消費者層だ。
Dash氏は、「(MCFI技術が使われている液晶テレビは)店頭ではあまり見かけないが、カンファレンス会場に行けば見ることができる」と述べ、さらに「(MCFI技術を使用することにより)画質が大幅に向上する」と付け加えた。
実際、日本ビクターは補間機能を搭載したリフレッシュレートが120Hzの液晶テレビを販売開始した。またシャープの関係者によると、同社もハイビジョンテレビに補間技術を追加するという。1080p対応HD液晶テレビに同技術を搭載するのはシャープが世界初だろう、と同関係者は付け加えた。
Berkeley氏によると、液晶がぼやけて見えるのは、人間の視覚体系と液晶テレビの映像技術を処理する方法にあるのだという。人間が動いている物体を見る時、脳はその物体の動きを予測する。仮に、頭の中で予想したイメージと、動いている物体の実際の映像が一致しなければ、その映像はぼやけて見え始める。
従来のCRTテレビは、ある意味で人間の視覚体系に非常に適している。CRTテレビでは、蛍光体で電子が発光することにより映像が映し出されるが、画像の劣化が早く、フレームが消える前でも劣化してしまう。新しい画像は、新たなフレームが現れるまで表示されない。つまり、CRTは連続する画像を断続的に表示することになる。
一方、液晶テレビや液晶モニターの画像は、次の画像が表示されるまで残存する。つまり、画像と画像の間に区切りがないので、ぼやけ効果を引き起こす。液晶テレビはまた、CRTテレビに比べ、画像を映し出すのに時間がかかる。CRT画面の反応速度が12ミリ秒(ms)なのに対し、一般的な液晶の反応速度はおよそ15msだ。しかし、MCFI技術を使えば反応速度が8msに向上する。
またサムスン電子は、液晶テレビ内で使う発光ダイオード(LED)やそのほかの光源の代わりに、カーボンナノチューブを使用する実験に取り組んでいる。
サムスン電子は2007年からMCFI技術を搭載した高性能テレビの販売を開始するが、ソニーが同技術を搭載したテレビを発売するか否かは現段階では不透明だ。サムスン電子とソニーは液晶パネルの合弁事業を行っているが、パネル自体は液晶テレビの一部品にすぎない。
またBerkeley氏によると、サムスン電子は生産能力を拡大し続けているという。現在、サムスン電子とソニーの合弁企業は、韓国の湯井にある第7世代工場で液晶パネルを製造している。この工場で生産されているマザーガラスのサイズはおよそ6フィート×7フィート(1.83m×2.13m)だ。同工場の月間製造枚数は100万枚を超える。
さらに現在、第8世代工場も建設中だ。この工場では、第7世代よりも大きいサイズのガラスを使った液晶テレビ画面の製造を行う。第8世代工場は2007年10月に稼動開始予定だが、サムスン電子の顧客は同社に予定の繰り上げを求めている(サムスン電子は自社とソニー向けにテレビ用パネルを製造するほか、大半の大手PCメーカー向けノートPC用パネルも製造している)。
シャープはすでに第8世代工場を完成させている。同社は製造面での優位性を利用し、価格面でも競合他社に対し優位に立とうとしている。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ