マイクロソフトは7月24日、障害のある高校生および高校卒業生の進学、就労をテクノロジーで支援するプログラム「DO-IT Japan」の実施内容を報道機関に向けて公開した。
DO-IT Japanは2007年より開始されたプログラムで、任意団体のDO-IT Japanおよび東京大学先端科学技術研究センターが主催、マイクロソフトが共催している。全国の応募者から選ばれた参加者は、5日間の体験プログラムを通じてテクノロジーなどの知識を身につける。参加者にはPCと、障害に応じた支援機器を提供し、体験プログラム後もオンラインメンタリングによって支援を受ける。
米国では、ワシントン大学がDO-ITプログラムを1993年より毎年実施しており、多くの卒業生が大学に進学している。東京大学 先端科学技術研究センター 教授の中邑賢龍氏は、「米国では障害のある大学生が約200万人在籍し、全学生の11%にも上っているが、日本では大学に在籍する障害学生は約5000人で、全体の0.17%に過ぎない」と指摘する。
これは、「海外では障害を持つ学生に対し、合理的な配慮をしているからだ」と中邑氏。日本では、障害があっても努力で何とかすべきだという風潮があるが、中邑氏は「努力だけではどうしようもならないことがある。海外では、文字が書けないのであればワープロを使ったり、問題を解くのに時間がかかるのであれば試験時間を延長したりといったことを認めている。こうした配慮で、多くの学生が学習を続けられるのだ」と説明している。
2007年のDO-IT Japanは、12名の高校生・高卒生が参加し、うち4名が大学を受験、2名が希望する大学への進学を果たした。今回も、手足などの体に障害がある学生はもちろん、発達障害や記憶障害など認知に障害のある学生も含め12名がプログラムに参加している。報道機関に公開されたプログラムでは、認知に障害のある学生に対し、Microsoft Office Visioを使って思考を整理する講座が開かれており、体に障害のある学生に対しては障害の程度に合ったPCの使い方が指導されていた。
千葉県から参加した小倉信治さんは、クラブ活動中に野球のボールが頭にあたって以来、高次脳機能障害を抱え記憶力が低下したという。今回の講習で、Visioで図を描きつつ思考を整理する方法を学び、「関連づけて覚えやすいのでこれからも使ってみたい」と意欲を見せる。小倉さんは、2007年にも同プログラムに参加し、今回で2度目の参加となるが、再度参加した理由を「ここで学んだことが役に立ったのはもちろん、同じように障害を持った人と知り合い、大学受験についての情報交換もできた」と述べている。
体に障害がある学生に対しては、Windowsにすでに組み込まれている機能で、障害がある人にとって使いやすい機能を中心に紹介されていた。
静岡県出身の木下昌さんは、頚随損傷により手足と呼吸に障害がある。手が動かせないため、パソコンのマウスは、アゴにつけた赤外線シールにより、赤外線認識機能を使って動かしている。キーボード入力はパソコンの画面上に表示された文字を赤外線でクリックしていく。画面上のキーボードは特別なものではなく、Windowsにすでに組み込まれているものだという。
ほかにも、シフトキーを固定させつつ他のキーも同時に押すことを片手だけでできる機能など、各個人に合った方法が紹介されていた。
東京大学の中邑氏は、「読み書きができなければワープロを使い、計算ができなければ電卓を使っていいはずだ。日本の教育現場ではそれがまだ認められていないが、将来的にはITの支援によって障害のある学生でも東京大学に進学できるようにしたい」と述べた。