「第5回北東アジアOSS推進フォーラム in 福岡」にて設けられたオープンソースソフトウェア(OSS)のエコシステムを考えるセッションで、中国代表として講演を行ったのは、中国の政府機関であるMinistry of Information Industry Software and Integrated Circuit Promotion Center(CSIP)のQiu Shanqin氏だ。CSIPは、中国のソフトウェア産業のエコシステムを作り上げるために設立された機関だとShanqin氏は説明する。
Shanqin氏が講演で話したテーマは、中国のOSS産業の全体像と、OSSのエコシステムの実情についてだ。
まずShanqin氏は、「2006年は中国のOSS産業にとってターニングポイントだった」と話す。それは、OSSの理念が知れ渡るようになったことや、これまでのようにすでに存在する機能をコピーするだけでなく、OSSをベースとした新しいアプリケーションを作り上げる動きが活発になったこと、またその結果、OSSのミドルウェアやERPなど新たなアプリケーション分野に参入する企業が増加したことにある。こうしたことからShanqin氏は、「Linuxだけでなく、さまざまなOSSが普及するにあたっての大きな転換期となる」とした。
しかし、これでOSSのエコシステムが確立されたかというとそうではない。中国でOSSのエコシステムを確立すべく活動を続けるCSIPだが、そのための課題をShanqin氏は、「まずビジネスモデルがはっきりしていないことが問題だ。また、コミュニティの形成も遅れている。コミュニティから新たなプロジェクトが発展する可能性や人材が育つこともあるので、これは重要なポイントだ。また、Linuxプラットフォームのキーアプリケーションが少ないことや、サポートが間に合っていないことなども課題だ」としている。
こうした課題は日本、中国、韓国すべての国で共通しており、中国でもCSIPを中心に解決に向けて動いている。具体的なCSIPの活動としてShanqin氏は、中国OSSコミュニティを形成したことや、IBM、Oracle、Sun Microsystems、Hewlett-Packard、Googleなどの企業や中国のOSS専門家によるOSSチャイナコミュニティ技術委員会を設立したことを挙げている。
また、人材育成についても、国家IT人材育成プロジェクトを立ち上げ、Linuxの専門知識を持つエンジニアを育成するとしている。Linuxに関しては、互換性を確保するためのリファレンスプラットフォームを開発した。
サポート面では、国家によるOSSテクニカルサポートセンターを設置した。中国ではここ数年、電子政府や金融、教育、通信、郵政、税務関連、鉄道事業などの分野でOSSおよびLinuxのソリューションが使われてきた。ただ、こうした分野での利用が全体の90%を占めていることからShanqin氏は、「アプリケーションが適応できる範囲をより広げなくてはならない。そのためにもユーザーが安心してOSSを利用できる環境が必要だ」として、テクニカルサポートセンター設立の背景を説明した。
OSSの知的財産権の課題に対しても、中国国内の大学や法律事務所などからなるOSS知財研究グループを設立した。こうした数々の動きが「中国のOSSエコシステムを確立していくための基礎となるだろう」とShanqin氏はいう。
またShanqin氏は、「OSSのエコシステム確立において、国際的な交流や協力は不可欠」としている。そのため、北東アジアOSS推進フォーラムにおける3カ国での活動はもちろん、中国では欧州諸国やロシアともOSS関連で国家レベルの協力を行っている。「オープンな態度で協力し、Win-Win関係を作りたい」とShanqin氏は述べた。