iPadが発売され、また新たな熱狂が始まろうとしている。米国での売れ行きが好調で、在庫不足さら日本での発売が遅れるという。メディアの評価も非常に高い。
一方、その中にしばしば混じるのがAppleによる囲い込み戦略がもたらすネガティブな側面だ。しかし、その囲い込み戦略が成功すればするほど、その周辺にはアプリケーションの開発を通じたイノベーションが連鎖し、ユーザーエクスペリエンスはより一層の高みへと向かう。果たして囲い込みとはそんなに悪いことだったのだろうか?
囲い込み戦略の再来
ITの歴史とはオープン化の歴史であり、それがもたらすコモディティ化の歴史である。すべてのパーツは部品化されて、インターフェースが標準化されることで、競争が激化し値段も下がる。
その対極が、開発当初のメインフレームコンピュータである。ハードウェアからソフトウェアまで一つの企業がすべて提供し、ソフトウェアは付属品のように扱われていた。
オープン化の過程で、各プレーヤーはどこかのレイヤ(例えば、ハードウェアだったり、OSだったり)に特化し、別のレイヤのプレーヤーとは補完関係を築く。間違って、そのレイヤをも取り込もうとするとMicrosoftがブラウザで失敗したように、大いに非難されることとなる。
つまり、オープン化が主流となるなか、企業としてはごく自然な活動ではありながらも、ユーザーの選択肢を狭める企業戦略は受け入れられないのである。
しかし、Appleの戦略は囲い込み戦略にほかならない。iBooksで購入した書籍はApple製の機器でしか読めない。つまり、ユーザーの選択肢を狭める戦略だ。
4月7日発売の「ニューズウィーク」日本版ではハーバード大学法科大学院教授Jonathan Zittrain氏の言葉として以下のように引用している。
「アップルの流儀を受け入れれば、自分の所有する機器上で『どんなプログラムを走らせ、どんなコンテンツを見るかという自由を代償として放棄する』ことになる...(中略)...『結果として、たいして良くないプラットフォームに縛られてしまう恐れがある』」
エンタープライズ領域でも再来する囲い込み戦略
しかし、この囲い込み戦略、コンシューマー領域よりも前に、エンタープライズ領域ですでに始まっていたものである。つまり、大手ベンダーによる垂直統合の流れである。
IBMはハードからソフト、そしてサービスへと領域を拡大し、ここ数年は大手ソフトウェアベンダーを次々と買収してきた。Oracleもデータベースからミドルウェア、そしてビジネスアプリケーションへと上流を統合する一方、Sun Microsystemsの買収によって下流の統合も実現しようとしている。
これらエンタープライズ・ソリューション・ベンダーは、オープン化の流れの中でレイヤ間で相互に補完関係を築きながら発展するモデルを打破し、上から下まで一気貫通型の統合ソリューションを提供することで差別化を図ろうとしている。
エンタープライズ領域では、オープン化によって増える選択肢とコストの低下が、システムの不安定さとインテグレーションの難しさへもつながる。それゆえに、全体最適を図ろうとすると、統合型のソリューションが力を発揮する側面も出てくる。
新しい囲い込み戦略の時代
しかし、ここまでオープン化を通じて選択肢を増やしてきたコンシューマーとエンタープライズユーザーが、一つのエコシステムの中に縛られていくことを良しとするのは何故なのだろう?