本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、慶應義塾大学教授/交通インフラDX推進コンソーシアム特別顧問の村井純氏と、EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクト パートナーの西尾素己氏の発言を紹介する。
「デジタルは社会課題を解決するための鍵であり、新しい価値を生み出す源泉となる」
(慶應義塾大学教授/交通インフラDX推進コンソーシアム特別顧問の村井純氏)
慶應義塾大学教授/交通インフラDX推進コンソーシアム特別顧問の村井純氏
産官学連携による「交通インフラDX推進コンソーシアム」が先頃、設立された。冒頭の発言はその発表会見で、同コンソーシアムの特別顧問を務める慶應義塾大学教授の村井氏が講演を行った中で、デジタルについて述べたものである。
同コンソーシアムは、JTOWER、住友電気工業、日本信号、NECの4社が、東京大学教授の大口敬氏、慶應義塾大学教授の植原啓介氏の協力を得て設立した。発表によると、「人・モビリティ・インフラが協調した安全安心で持続的な交通社会の実現に向けて、交通信号機の活用による5Gネットワークを軸とした柔軟性かつ拡張性のある新たなデジタルトランスフォーメーション(DX)基盤やアプリケーションが社会実装されるよう、検討・対外活動を推進する」としている。
具体的には、インフラの普及やアプリケーションの社会実装に向けた調査・研究、情報発信・広報活動、技術的な要件の検討、ガイドライン案の取りまとめ、並びに関係する府省庁、団体、大学などさまざまな人たちとの協議なども踏まえた関係機関などへの提言を行っていく構えだ(図1)。
図1:「交通インフラDX推進コンソーシアム」の概要(出典:「交通インフラDX推進コンソーシアム」発表資料)
同コンソーシアムの設立背景や具体的な活動内容、メンバーについては発表資料をご覧いただくとして、ここでは村井氏の発言に注目したい。
「私は、歴史的な観点から見て、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年において『リアル空間とサイバー空間が合体した』と、世界中の人たちが共通の認識を持ったのではないかと捉えている。日本政府もこのタイミングに合わせてデジタル化への政策推進に大きく舵を切った。では、合体したこの2つの空間を利用して何ができるのか」
こう問題提起した同氏は、次のように続けた。
「それぞれの空間で発生したデータをサイバー空間で計算処理し、適切な分析を行って『知』とし、それをリアル空間へもフィードバックしていく。つまり、デジタルを活用してリアル空間とサイバー空間を高度に融合させ、新たな『サイバー文明』を創り出していく。そして、この新たな文明によって、誰もが幸せに感じる社会の構築を目指していくことが重要だ」
図2:リアル空間とサイバー空間の融合が創り出す「サイバー文明」(出典:「交通インフラDX推進コンソーシアム」発表会見での村井純氏の講演)
また、今回の取り組みである交通インフラDXの推進がもたらすものとして、「全国津々浦々にデジタルインフラが行き渡り、IoTテクノロジーによって地域のDXを推進する。そうした活動がさまざまな社会価値を生み、人が安全に暮らせて生き生きと輝く強い地域となっていく。このコンソーシアムに参加したメンバーが力を合わせれば、こうしたことが実現できる」と力を込めた。
同コンソーシアムの前身となるプロジェクトを率いてきた村井氏だけに、身振り手振りを交えた熱のこもったスピーチが印象的だった。