ThinkFree--その社名は、「無料(Free)というのみならず、プラットフォームやロケーションからの自由(Freedom)を意味している」と同社CEOのTJ Kang氏。カリフォルニア州サンホゼに拠点を置くThinkFreeは、オフィス関連ソフトをSaaS(Software as a Service)形式にて無料で提供する企業だ。米Red Herring主催のイベント「Red Herring Japan 2007」でWeb 2.0企業としてパネルディスカッションにも参加した同社は、5月には日本国内でソースネクストとパートナー契約を結び、日本語版の「ThinkFree てがるオフィス」ベータ版も公開している。
Kang氏が製品開発を始めたのは1990年代後半のことだ。もちろんその当時からオフィス関連ソフトではMicrosoftのOffice製品が市場を独占していた。しかし、その頃Sun MicrosystemsのCEOを務めていたScott McNealy氏(現 会長)をはじめとするIT業界の要人らは、さかんにネットワークコンピューティングの世界について説いていた。Kang氏は「ネットワークコンピューティングの世界が到来すれば、Microsoftに勝てる」と感じたという。
ThinkFreeが正式にサービスを発表したのは2000年2月。その約1年後、Kang氏は米国のビジネス誌で忘れられない記事を目にする。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏が、Microsoftの脅威となる製品や企業は何かとの問いに、1番の脅威はLinux、そして2番目はThinkFreeのようにOffice関連製品のサブセットを提供している企業だと答えていたのだ。
しかしその後、ドットコムバブルはいったん崩壊し、ThinkFreeも大幅なリストラを余儀なくされる。サービス開始当初は東京にオフィスも構えていたが、2002年には撤退を決意した。Kang氏は当時を振り返り、「結局Ballmer氏をがっかりさせてしまったね」と笑う。
それでもKang氏はサービスを続けた。ASPという言葉がSaaSに取って代わり、Salesforce.comやGoogleなどの新興企業がこの市場に参入した。そしてThinkFreeも再び注目されるようになる。
Googleはいまや「Google Docs & Spreadsheets」も提供しており、ThinkFreeにとって最大のライバルだ。それでもKang氏は「Google Docs & SpreadsheetsよりもThinkFreeのサービスに優位性がある」と話す。それは、Microsoft Officeとの互換性の高さだ。「Googleのソリューションは確かに人気がある。とはいえ、Microsoft Officeユーザーが完全にいなくなることは当面の間ないだろう。ほかのOfficeユーザーとドキュメントをやりとりする限り、Officeとの互換性は重要だ」とKang氏は主張する。
同時にKang氏は、「Googleはライバルだが、彼らのおかげでThinkFreeのビジネスチャンスも広がっている」と話す。例えば、検索サービス「NAVER」を提供する韓国のNHNは、検索市場でGoogleと競合しているが、Googleに負けないようにとオフィス関連ソフトをSaaSで提供開始した。そのサービスは、ThinkFreeとの提携によるものだ。
現在ThinkFreeは、広告を主な収入源として、ワードプロセッサや表計算、プレゼンテーションなど一連のオフィス関連アプリケーションをすべて無料で提供しているが、今秋には有料サービスも開始すべくベータテスト中だ。有料サービスでは、オフラインでもThinkFreeが使えるようになる。「アプリケーションをキャッシュして保存し、オンラインになった時に同期できる」とKang氏は説明する。
また、同社はエンタープライズ市場にも参入する予定だ。Kang氏は、エンタープライズ市場ではパートナーシップが重要だとして、「すでに日本のパートナーにもアプローチしている。秋の終わり頃には日本でのパートナーシップを発表できるだろ」としている。
最後にKang氏はこう言った。「数年後には、オフィス関連アプリケーション市場は完全に変わるだろう。市場トップとなっているのは、もしかするとGoogleかもしれないが、ThinkFreeにもその可能性はある。確かなのは、それがMicrosoftでないということだけだ」