Papermaster氏は最近まで、IBMでマイクロプロセッサ技術開発担当バイスプレジデントを務めていた。IBMのPapermaster氏に対する訴状のコピーによると、同氏はAppleへの入社を計画しており、Appleでは最高経営責任者(CEO)のSteve Jobs氏と緊密に協力するポストが用意されているという。IBMは、AppleがPapermaster氏を採用することにより、サーバ市場およびハンドヘルド端末用チップ市場における存在感の増大を目指していると見ている。ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出されたその訴状によると、IBMがPapermaster氏を提訴する目的は、同氏がAppleに入社し、IBMのPowerチップやサーバ製品に関する企業秘密を漏えいするのを阻止することにあるという。
Papermaster氏はIBMで、チップ開発に関するいくつかの論文を執筆した。IBMといえばもちろん、Appleが2005年にIntelに乗り換えるまでIBMがAppleに提供していたPowerPCプロセッサを開発していた企業だ。IBMはPapermaster氏を「Powerアーキテクチャとその技術に関する第一人者」と評する。Papermaster氏のIBMにおける最近の役職は、ブレードサーバ部門の責任者だった。
Appleの関係者は、訴訟やPapermaster氏の雇用についてコメントを差し控えている。IBMは「Papermaster氏のAppleへの移籍は、IBMを退職しても競合企業で働かないという契約に違反する。この件は、法廷で精力的に追求する」との声明を発表した。
Papermaster氏がAppleに移籍することになれば、CEOのJobs氏と緊密に仕事しながら「Appleに対しさまざまな問題に関する技術的、戦略的なアドバイスを提供する」ことになると、IBMは訴状に記している。ここで気になるのは、何の問題に関するアドバイスかである。
ここ何年かのAppleの大きな動きと言えば、MacでサポートするチップをIntel製に切り替えたことやiPhone発売が挙げられるが、その間「Xserve」はトッププライオリティとして扱われてこなかった。しかし、もしAppleがエンタープライズ市場に本腰を入れるつもりなら、Xserveブレードサーバを用意するのも、Macを補完する意味でよい戦略だろう。
だが、IlluminataのアナリストでCNETにも寄稿するGordon Haff氏は、コンピュータ企業からコンシューマエレクトロニクス企業への転換に成功したAppleが今になって、サーバ市場に戻ってゆくような真似はしないと考えている。2002年にAppleがXserveを発表したころは、Appleもサーバ市場に本気で取り組む様子だったが、ここ2〜3年は同製品に費やされる時間も費用も減ってきていると、Haff氏は述べる。
Papermaster氏の雇用で成り立つもう1つの推測は、Appleがクラウドコンピューティングのインフラを拡充して「MobileMe」をサポートしたり、サービスを増やしたりする予定なのかもしれないというもの。ブレードサーバは高密度に設置でき、なおかつ高い処理能力をもつため、データセンターの今後を模索する多くの企業が注目する技術。Appleもインターネット配信サービス市場における主力プレーヤーになりたいのであれば、自由に使える膨大なコンピューティングパワーを用意する必要がある。プロセッサとチップセットのほかコンピュータのほかの部品を連携させるパッケージ技術など、Papermaster氏のシステムデザインに対する見識は、幅広い製品を扱う会社では重宝がられるだろう。
チップデザインの分野で実績のあるPapermaster氏は、Appleでチップ設計を任される可能性もある。
Appleは2008年にチップメーカーのP.A. Semiを買収した。この買収により、Appleがチップ設計について大変真摯に取り組んでいることが明らかになった。Jobs氏はThe New York Times紙のインタビューの中で、P.A. Semiを使ってiPhoneとiPod Touch向けチップを開発すると語った。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ