プロプライエタリソフトウェアは既に“持続不可能な地点”に達した−Red Hat

渡邉利和

2007-10-22 13:20

 「オープンソースソフトウェア(OSS)は個人の趣味に基づくもので、ソフトウェア開発に事業として取り組む企業が提供するような高い品質や信頼に値するサポートを提供することはできない」と考えるユーザーはまだ皆無になったわけではないだろう。こうした考えに対し、米Red Hatのオープンソース担当バイスプレジデントであるMichael Tiemann氏は「プロプライエタリソフトウェアは既に“持続不可能な地点”(point of un-sustainability)に達している」と語る。

プロプライエタリソフトウェアの危機

 同氏は、そのことを裏付ける、ある調査結果を披露した。それは、「主要なIT企業の90%は、顧客の80%以上から“不満足”との評価を受けている」というというものである。

 この結果について同氏は、「プロプライエタリソフトウェアではもはや、ユーザー主導型のイノベーションをOSS以上の水準で実現することはできない」と語る。また、平均的なプロプライエタリソフトウェアにおける“欠陥率”(Defect Rate)は、主要なOSSの欠陥率のおよそ100倍にも達するという調査もあるのだという。

 同氏は、プロプライエタリソフトウェアが置かれた現在の状況を、製造業における1960年代の状況にたとえる。Ralph Naderが、その著書“Unsafe at Any Speed”で有名になった時期だ。

 この本では、GMの乗用車、コルベア(Corvair)を、安全性や品質を軽視してスタイルやファッションにのみ注力した悪い代表例として取り上げ、糾弾している。同様にプロプライエタリソフトウェアも、深刻な危機に直面しているというのだ。

 では、この危機を乗り越えるために必要な新たなアプローチはどのようなものになるのだろうか。Tiemann氏は、品質と変革の重要性を理解している国として日本を挙げた。そして、「日本は自国について“ソフトウェアに弱い”と考えているようだが、実は“全世界はソフトウェアに弱い”というべきだ。私自身は、オープンソースに取り組むことによって、日本はこの弱みを強みに変えられると信じている」という。

Red Hatの哲学

 Tiemann氏によると、Red Hatの哲学は、Mahatma Gandhiの思想からインスピレーションを受けているのだという。

 Gandhiの有名な発言に、“First they ignore you. Then they laugh at you. Then they fight you. Then you win.”(最初、彼らはあなたを無視する。そして彼らは、あなたを笑う。そして彼らは、あなたと戦う。そしてあなたは勝利する)というものがある。同氏は、「1989年に私が最初のオープンソース企業を創業したとき、ほとんどの人からは無視された。後には笑われたし、今はRed Hatでさまざまな形で攻撃を受けているところだ。競合企業とそのパートナーは、Red Hatに対しては極めて攻撃的な態度を示している。このことは、われわれが正しい道を歩んでいることを示すものだ」という。

 次いでTiemann氏は、オープンソースがイノベーションに関してもたらすメリットを明らかにした。ハイテク分野において、革新は重要な要素であり、競争戦略の主たる要素でもある。次の大きなイノベーションをどう達成するかは、企業経営における重要なテーマとなっている。同氏は、ハーバードビジネススクールのClayton Christensen氏の著書『The Innovator's Dilemma』(イノベーションのジレンマ)や、MIT教授のEric Von Hippel氏が提唱した“ユーザー主導のイノベーション”(User-driven Innovation)という概念を紹介し、さらに日本の「必要は発明の母」という言葉にも言及する。この言葉の同氏流の解釈は、「イノベーションを起こすのは、問題に直面し、解決を必要としている人だ」となる。

 同氏は、特許で保護されたプロプライエタリな技術がイノベーションを阻害する例として、蒸気機関が発明されて以降の効率改善の過程を示すグラフを示した。蒸気機関の発明者であるJames Wattが特許を保有している期間に彼自身が行った効率改善に比べ、特許が切れた後に行われた効率改善のほうが圧倒的に広範に及んでいる。これは、蒸気機関を必要としているユーザーが、自分自身のアイデアに基づき、自分自身の問題を解決するために改良を行った結果だと同氏は語る。

 オープンソースは、より多くのユーザーにイノベーションの自由を提供するというのが、同氏とRed Hatの信じるところだという。

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