4月23日から2日間に渡って開催される情報セキュリティカンファレンス「RSA Conference Japan 2008」。初日の基調講演に登壇するのは、EMCのExecutive Vice Presidentで同社セキュリティ部門RSAのPresidentを務めるArthur Coviello氏だ。
RSA Conference Japanの開催にあわせ来日したCoviello氏が22日、報道陣のグループインタビューに応じた。
同氏は昨年、米国で開催されたRSA Conferenceで「専業セキュリティベンダーは生き残れない」と発言して話題を呼んだ。そして今年、4月8日に開催された同カンファレンスで、その予言が的中したことを暗に示してもいる。
しかし、一方でチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズなどの専業ベンダーの製品が人気を集めていることも確かだ。こうした状況について、Coviello氏は「Thinking Security」の重要性を強調する。
「今後も新しい(セキュリティ専業の)企業が続々と出てくるだろう。そうした企業も、最初は個別の製品から出発するものだ。しかし、時間とともにそうした製品は『考えるタイプのセキュリティ』に統合されていくのではないか」という。
考えるタイプのセキュリティというのは、次の発言で示されている。
「私の信じるところでは、時間の経過ともに(情報セキュリティの分野で)AIの技術が利用されることになる。より考えるタイプのセキュリティだ。AIの技術というのは、ビヘイビア(ふるまい)やコンテンツを見て(重要性を)判断するようなもののことだ」
何故、こうしたAIの技術が必要になるのだろうか。それは「(企業が抱える)データが膨大なものになり、データのセキュリティを確保することが非常に難しくなっている」からだ。
Coviello氏はRSAセキュリティ 代表取締役社長 山野修氏が会話をした際に、山野氏が話した情報セキュリティと聖火リレーの比喩を紹介した。
「聖火はスタジアムの一個所にあるものではなく世界中を回るもので、特定の場所に安置されていない。そして聖火を防御するためにボディガードが周りを固めている。つまり、スタジアムだけを防御しているのでは、うまくいかないのだ。聖火があちこちを動くたびに、聖火そのものを防御しなければならない」
この比喩で言えば、「聖火」は明らかに「情報」のことだ。
Coviello氏はインタビュー中に何度も「データ」と「情報」という言葉を使った。両者は、単なるデータと、それを評価することで別の価値を持つに至った「情報」というように、たくみに使い分けられていた。
つまり、企業内外に散らばる「データ」の中で、「何が重要な情報か」を判断することが求められているということだ。そのためのAI技術というわけだ。
「情報管理を始める上では、重要な情報を特定するためにデータの分類が求められる。そうすると、どういったところに対策を施せば良いかがわかる。さらに、情報管理とセキュリティを密接に関係させることもできる。そして、価値の高い情報とそれに伴うリスクを理解することで、リスク軽減のためのポリシーを策定することが可能となるのだ。ポリシーを策定したら、そのポリシーが確実に守られているかを監視する仕組みが必要になる──これら全てが『情報』に焦点をあてて実施されていることがわかるだろう」
こうした理念を踏まえ、RSAが近年標榜しているメッセージが「Information-Centric Security(情報中心セキュリティ)」だ。「Information-Centric Securityは、インフラの中にセキュリティ製品・テクノロジーを組み込んでいくことを指している」とCoviello氏は言う。そうした戦略が背景にあった上で、専業ベンダーは生き残れないという発言が生まれたのだ。
「セキュリティは、情報管理、情報インフラと一緒に管理されなければならない。(そのために企業が取り得る)良い方策として、ITインフラ企業がセキュリティ企業と組む、あるいはそれを傘下におさめるという動きがある。既存システムの上にセキュリティを組み込むのではなく、インフラの中にあらかじめ組み込んでおけるのだ」
Coviello氏は最後に、EMCの立場についても言及した。EMCをITインフラカンパニーと位置付けた上で、ささやかに、しかし力強く「情報セキュリティを確保する上で、完璧な企業としてのEMC」と呟いていた。