最近、新聞や雑誌、テレビで「2007年問題」という言葉を耳にすることが多くなった。これは、1947年から1949年に生まれたいわゆる「団塊の世代」が60歳を迎え、定年退職していくことによって経済や社会、企業に引き起こされるインパクトのことを指している。その点で、かつて話題になった、古いITシステムの仕様に由来する不具合を懸念した「2000年問題」とは、明らかに性質を異にするものだ。実際の2007年を間近にして、今後は議論が多様化してくる可能性もある。ここでは、2007年問題が企業に及ぼす影響をさまざまな観点から論じてみたい。
「団塊の世代」という言葉は、作家の堺屋太一氏が1976年に発表した同名の小説に由来している。総務省統計局の推計人口によると、該当する人口は679.8万人(2004年10月1日時点)に達するほど膨大な人口の層だ。高度成長期の末期において、就職、経済の成熟化とともに消費が多様化し始めた日本経済を引っ張り、40代にはバブル景気を経験した世代だ。ちなみに、1950年、1951年生まれの「ポスト団塊」世代の人口もそれぞれ200万人前後おり、その意味では、2007年問題は「起こる」というよりも、「始まる」と言ったほうが正確かもしれない。
滅びゆく暗黙知
ピアノの製造で知られるヤマハ楽器は、熟練したピアノ製造職人が大量に退職することに対応するため、新たな技術者の養成を急いでいる。定年を間近にした職人が、20代、30代の若手後継者に、自らの足跡を踏みしめるように技を伝授しているのだ。また、家電メーカーのシャープは、「モノづくり匠(たくみ)制度」を創設。製造現場で働く約4000人の中から、高度な技能を持つ人材を選び、後進を育てる「匠」と認定した。製造業を中心に、文書化や形式化が難しい暗黙知を、次の世代に移転させることが急務になっている。これまで、ものづくりで経済成長を果たしてきた日本にとって、「技」の断絶は致命傷になる可能性があるため、各社とも急ピッチの対応を取っている状況だ。
さて、ここまでは一般的な意味での2007年問題について説明してきたのだが、2007年問題という言葉自体は、実はIT業界から生まれたものだ。システムインテグレーターであるCSKの有賀貞一氏が「メインフレームやオフコンで構成されている日本企業の基幹系システムを最初に構築し、運用、保守を手掛けてきたベテランエンジニアが定年を迎えるため、将来の情報システムの拡張やメンテナンスに重大な問題が発生する」という仮説を立て、それを2007年問題と呼んだのが始まりだった。
メインフレームは主にCOBOLなどのプログラム言語でコーディングされているが、近年ではCOBOLを習得しているエンジニアは少ないのが現状だ。従って、ビジネス環境の変化などにより、企業が既存の基幹システムの要件を変更しなくてはならないときに、それを担える技術者がいなくなってしまう。IT業界における2007年問題の典型的な考え方は、その影響の大きさを不安視することにある。
2007年問題など存在しない?
一方で、「2007年問題など存在しない」という意見も多い。その背景には、今どきの60歳は昔と比べて相対的に若いため、定年後も再雇用すれば十分働いてもらえるという考え方がある。また、社員が60歳を過ぎても働ける制度の導入を義務づけるために、高齢者雇用安定法が改正されたことも、具体的な根拠の1つになっている。さらに、「2007年を待たずとも既に企業の情報システム部門における世代交代は日々進んでおり、2000年問題のような瞬間的な影響はない」とする考え方もある。
しかし長い目で見れば、2007年問題は再雇用による対応や、世代交代の流れの中で自然に解消できるほど簡単ではない。定年を迎えたエンジニアを再雇用したとしても、そこからさらに長い間働けるわけではないからだ。2007年問題にとって、再雇用や定年延長といった対応は、ある意味で「付け焼き刃」的であるとも言える。「メインフレームを扱うエンジニアがいなくなるからシステムを刷新しなくてはいけない」という状況は、遅かれ早かれ、どの企業にも実際に訪れるということを認識しておかなくてはならない。
その際に問題になるのは、現在の若手から中堅エンジニアが企業の情報システムをゼロから構築した経験をあまり持たないことだといわれている。というのも、団塊世代のエンジニアが構築した既存のシステムを管理したり、拡張したりすることが、彼らの主な業務だったからだ。
ただし逆に言えば、優秀なエンジニアにとっては、時代の流れに乗りながら、自分の思う通りに情報システムを設計し、構築するチャンスが巡ってきたともいえる。
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