スケールアップが適する場合
スケールアウトは、コストが低く、高可用性も実現できるため良いことずくめのようにも思えるが、スケールアウトではうまく処理能力が向上できないアプリケーション領域も存在する。すなわち、ひとつのイメージのデータベースに対して頻繁に更新が発生する、いわゆるOLTP(オンライントランザクション処理)である。
OLTPでは、データベースの排他制御がパフォーマンスに大きな影響を与える。排他制御のオーバーヘッドが大きければ、いかに強力なサーバを使用しても高パフォーマンスを実現できない。排他制御を効率的に行うためには、更新処理を行う複数プロセスが可能な限り短い遅延時間内で通信する必要がある。遅延の短い通信をするには、同じ筐体内でのメモリ経由の通信が最適といえる。異なった筐体間でネットワーク経由の通信をすると、遅延は長くなり、そこが処理全体のボトルネックになってしまう。結果的に、OLTP系のアプリケーションに対しスケールアウトのアプローチでサーバを追加しても、処理能力は比例して増加しない。むしろ、低下してしまうことすらあるほどだ。このような場合には、スケールアップのアプローチが必要となる。
SAPやOracleなどが提供するエンタープライズアプリケーションパッケージは、システム的に言えば複雑性が高いOLTPだ。これらのパッケージ製品を大規模に展開するためには、スケールアップのアプローチ、すなわち大規模サーバがほぼ必須となる。より正確に言えば、アプリケーションサーバではスケールアウトが可能でも、データベースサーバではスケールアップが必要だ。Oracleが提供するRAC(リアルアプリケーションクラスタ)などの共用キャッシュを生かしたテクノロジにより、複数システムによるデータベース更新処理の排他制御のオーバーヘッドは飛躍的に低下した。それでも、スケールアウトにより性能向上ができる上限は数台レベルまでで、数百台のサーバを使用して処理能力を数百倍にするというのは非現実的だ。
OLTP系のアプリケーションにおいても、データベースを分割してスケールアウトのアプローチができないわけではない。しかし、前述のように、このような方法では処理能力増強(サーバ追加)のたびにデータベースの再分割作業が必要で、運用上の負担がきわめて大きくなるリスクがある。また、一般的な業務アプリケーションでは、全プロセスから更新される制御テーブルのような共用データ項目が存在し、データベースを完全に分割することが困難な場合も多い。さらに、アプリケーションパッケージ製品を使用している時は、パッケージ側がデータベースの分割を前提に作られていなければ、いずれにせよスケールアウトの適用は困難である。
やはりスケールアウトもスケールアップも必要
「ローコストの小規模サーバを多数組み合わせたスケールアウト構成を取れば、スケールアップ構成、すなわち高価な大規模サーバは不要である」と主張する人もいる。これは、ウェブサービングなどの特定の処理には当てはまるが、あらゆるタイプの処理に当てはまるわけではない。特に、大規模OLTPではスケールアップ的なアプローチが依然として必要である。
スケールアウトとスケールアップの特性の相違は、サーバ内通信とサーバ間通信の遅延の違いという物理法則に由来するものだ。ゆえに、今後も長期的にスケールアウトとスケールアップの使い分けは必要となっていくだろう。本来スケールアップが適した領域にスケールアウトを適用しようとしたり、その逆を行おうとしたりすることで、根本的に不適切なシステムを構築することは避けなければならない。
関連情報
-
デルのCTOが仮想化技術を絶賛
Dellの最高技術責任者(CTO)が、「LinuxWorld Conference and Expo」で仮想化技術を画期的変革だと絶賛し、業界の向かうべき正しい方向だと訴えた。 - 日本IBMが新Unixサーバを発表--「仮想的にスケールアウトとスケールアップができる」
「今さら人に聞けないITトピック」 のバックナンバー
-
アップルの「Boot Camp」について知っておくべき3つのこと
Mac上でWindowsを稼働させるためのソフトウェアとして、アップルの「Boot Camp」が「Parallels Desktop」や「VMware Fusion」よりも優れた選択肢となり得る3つの理由について解説する。 -
TwitterでフォローすべきIT専門家100人
-
ビジネスユーザーのための価値あるTwitterユーティリティ10選
-
ここまで理解すればデビューもかんたん--ビジネスユーザーのためのTwitter基礎講座
-
マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」とは?
- 今さら人に聞けないITトピック 一覧へ »
-
日本モバイルインターネット端末市場分析 〜2008〜2012年のMID及びスマートフォン...
- 【導入事例集】多業種から評価されているWeb会議システム、24社の導入事例をご紹介
- BIベンダーの選び方 −BIベンダー選定のための評価フレームワーク
- POSデータを活用し、売上アップを導く「分析力」とは?
- 【日産自動車:BI導入事例】連結対象の36社からの情報を元に車種別損益管理を実現
- CRMの限界を超える!「顧客経験価値マネジメント」実現の5段階
- iPhoneをビジネスで活用する時代へ〜ビジネス&モバイルのミライ〜
- ストレージ問題の課題に対する解決方法
- 企業コスト削減の傾向と対策 〜最新アプローチのトレンド〜
- 中堅企業におけるテクノロジーと成長
企画特集
-
大丈夫?あなたの会社のセキュリティ対策
中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティを考える -
高まるiSCSIストレージへの注目度
ストレージシステムの4つの課題とiSCSI導入のメリット -
電力に"ふた"をする独自の省エネ機能とは!?
動的に電力割り当ても可能なHPの最新鋭ブレードに迫る -
マネジメントの「コラム」と「コネタ」
今日のキーパーソンは誰? -
企業ITシステムの企画、構築、運用のイロハ
戦略的なITシステムのために、今考えるべきポイント -
100万円で実現!中小企業の情報漏えい対策
中小企業の課題!?セキュリティ管理者不在でも大丈夫 -
【最終警告】パンデミック対策特集
サービス品質を保証するためのリスクマネジメントとは -
―エン・ジャパン厳選求人☆毎週更新―
ハンゲームの社長が語る・人材とサービスの在り方 -
グリー、3人のエンジニアが語る仕事への想い
連載第2話、元SIerに聞くリニューアルと開発の舞台裏 -
容量制限によるメール消去は一切無し!
全てを保存するメールセキュリティSaaSが登場 -
J-SOX法制定により内部統制の整備が急務に
重要性高まるActive Directoryの課題と対処法を公開中 -
急増するオンライン犯罪への解決策!
オンラインサービス保護ソリューション
ZDNet Japan イベント
- 開催日:2009年11月26日(木)
- イベント一覧へ»
-
15. プラグマフリー構文
この4分間のビデオは、プラグマ構文を知らなくてもOpenMPディレクティブ... -
16. 並列性の用語定義
この6分間のビデオでは、このシリーズのビデオを通じて使用される用語を...
新着企業動向
-
アズジェント、ブルーコートシステムズ社とディストリビュータ契約を締結
アズジェント -
【冬季特別開催セミナ】 DOA40年総括とデータマネジメントの未来
データ総研 -
「知って楽しむオトナのたしなみ」出張アテンダント編を公開しました!読者プレゼント企画も...
日立システムアンドサービス -
M@gicPolicyCoSMO
アズジェント - 企業動向一覧へ»
