夕方、久しぶりに彼女に会う
窓の外は茜色に染まろうとしていた。そんな景色をよそに、私はいつものように午後を過ごした。毎日の見慣れた風景、それは私の人生をただ通り過ぎていた。同じように日々繰り返されるオフィスの人たちの行動。夕方になって営業が戻ってくる。そして1日の終わりには、がらんとしたオフィスで数人の社員が遅くまで仕事をする。それは変わりない会社の日常だった。
いつもなら私もそんな社員の1人だ。しかし、今日は珍しく予定を入れることにした。夕方、さくらに会うのだ。彼女は半年前、私がこの会社に転職した時に偶然再会した大学時代のサークル仲間だ。当時から彼女は仲間達の間では高嶺の花だった。容姿端麗、そして頭脳明晰とは彼女のためにあるような言葉だと、彼女と会った時思った。実は私も彼女の隠れファンの1人だった。
彼女は時間よりも10分ほど前に現れた。しばらく連絡を取っていなかった私に対し怒る風でもなく、彼女はいつものように笑顔だった。おいしいイタリアンが食べられるという彼女の勧めで、今日は彼女についてその場所に行くことにした。最初に一通りお互いの近況を話した後、彼女の口から出た言葉に私はびっくりした。
「ねぇ、Second Lifeって知ってる?」
「えっ?」
「いや、引退後の生活とかそういうのじゃなくて、Second Lifeっていう仮想空間の中で生活するようなサービスがあるの。最近よくネットで調べ物をすると、よく行き当たっちゃうのよね」
知っているも何も、その話をしようと思ってたんだけど。
「私、大学時代にコンピュータとか、オンラインワールドの経済社会とか、そういうのを研究してたのよね。だから実はそっち方面に結構詳しいんだ」
な、なにっ? そうなのか。そんなこと知らなかったぞ。そういえば、別に授業のテーマなんてあの頃関係なかったからなぁ。あの頃は一緒にバカやってるだけで何も考えてなかったっけ……
「それでね…… 聞いてる?」
「う、うん聞いてるよ」
「ちょっと相談したいと思ってたの」
あまりにもタイミングが良すぎるじゃないか。
「実は私、結婚したんだ」
えっ?