日本の大手企業に勤務している人が、出向などをきっかけに外国企業の中で働く経験を持つと、みんな異口同音にその「スピード」の違いに驚くという。会議で議題を提示し、議論し、その対策を決定し、実行に移すまでの時間が、日本企業とは比べものにならないほど速いというのだ。特に米国の企業では、迅速な決定と、正確かつ速やかにそれを実行することが求められるという。一方、日本企業では、細やかな「申し送り」や「根回し」を重視する企業も多い。そのように企業風土の異なる中で、日本における外資系IT企業の経営者に求められるものは何だろうか?
今回は、実際に外資系IT企業の日本法人で社長を務めた経験のある人物に話を聞き、その求められる資質についてまとめてみた。
#1:国粋主義とは異なる「愛国心」
日本における外資系企業の経営者は、日本に対する「愛国心」がなくてはならない。これは了見の狭い国粋主義ということではなく、「日本を重視する」という意味においてだ。外資系企業の日本法人が担当するマーケットは、あくまでも日本の国内市場だ。マーケットが日本の市場に限られている以上、その中での存在意義がなければ、外資系企業の経営者は生き抜いてはいけない。
では、外資系企業の経営者の存在意義とは何か? それは、「日本経済の発展に貢献できる」ことだ。エンタープライス系であれば日本企業の成長、コンシューマー系でいえば日本人の生活に貢献出来ることが、日本における外資系企業にとっての存在意義となる。日本の産業が栄え、国民生活が豊かになることに対して企業として貢献できるかどうかが問われるのだ。その意味で、日本における外資系企業の経営者には、日本企業の経営者以上に日本のサポーターとしての「愛国心」が必要となる。
#2:日本企業を世界で勝ち残らせるための「提案力」
日本における外資系企業にとって、自分たちの顧客となる日本企業が成長できなければ、自らの成長も望めない。従って、外資系日本企業にとって、顧客である日本企業とそれを支える消費者とを育てることが、市場を確保する上で最も重要な使命となる。日本における外資系企業は、日本企業が世界に対して競争力を持てるよう支援しなければならないということだ。
支援とは、顧客である日本企業の事業や商売がうまくいく仕組みを提供することだが、そこには、コスト削減や技術力の向上など、さまざまな局面がある。従って、それぞれの局面において、日本企業を世界の競争で勝ち残らせるための「提案力」を持っていることが、外資系企業の経営者の資質として非常に重要となる。
外資系企業の経営者をヘッドハンティングするエージェントは、ターゲットとなる人材が、受け入れ先の会社の製品知識を持っているかどうかに、一切興味はない。外資系企業の経営者になりたかったら、日本企業や商習慣を深く勉強するべきだと彼らも言うだろう。そして、「なぜ日本人を経営者として雇うのか?」という問いに対する答えもそこにあるのだ。
#3:英語力以上に重要な「情報力」
外資系企業での英語の必要性は議論するまでもない。しかし、外資系で(海外の現地法人を含めて)長く働き、役員の補佐などの形で外国人に仕えたりした場合、相当英語に自信がある人でさえも、スピード感や理解の深さは母国語と断然違うと感じるらしい。たとえば、会議に外国人が入った場合は、当然英語を使う。しかし、TOEIC900点台の人でさえ、会議が終わった後には日本人同士で日本語を使い、真意の確認をしているという。
手段としての言葉と現実としての仕事の成果や達成を天秤にかければ、英語だけで勝負しようとするのは、全くナンセンスである。通じる英語力は必要だが、経営者に対しては、それ以上に日本の経済や産業、そしてそれに関連するチャネルや人脈、商習慣や企業文化などの「日本情報」をよく知っていることが、より求められる。