無事インドから帰ってきました。結婚式が3日間というのは本当でした。といってもここまで派手な結婚式というのはインドでも北部のみで、それ以外の地域はもっとあっさりしたものだそうです。
今回は、帰りの飛行機で読んだ『ウェブ2.0爆発は秒読み』というニューズウィーク日本語版10月22日号の記事とインドにおけるカオスを結び付けつつ議論したいと思います。
インドのカオスと秩序
前回お話した通り、今回インドで訪問したのは北部にあるチャンディガルという都市である。チャンディガルはパキスタンとの分割によって新たにパンジャブ州の州都として建設された計画都市であり、それゆえに、インドにして恐らく唯一、道は碁盤目状に走り、ル・コルビジェを始めとする建築家達による建造物が多い。そしてこの計画都市の特徴のひとつは、国民一人当たりの所得がインドで最も高いということである。これが、都市計画のみによって実現されているものとは思わないが、インドの都市としては珍しく大渋滞のようなものが無く、人と物の流れはスムーズである。
一方、今回訪問したもう1つの都市であるアグラはどうか。当然ながら道は整然とはしておらず、舗装もところどころ行われていない。工事中で片側通行止めでも、何の交通整理もないので、突然対向車が逆走してきたりするのである。踏切待ちなどはひどいもので、電車を待っている間に両側ともに道一杯に車やらバイクやらが広がってしまい、いざ踏切が開くとどちらも渡りきることが出来ず、踏切の上で大混乱を呈するのである。踏切の前で一旦停止など有り得ない世界である。それでも何とか社会が回っているのだから、そこには無秩序なりの秩序があるのだ。
しかし、チャンディガルとアグラのどちらからエネルギーを感じるかというと、実はチャンディガルの秩序より、アグラの無秩序からである。そして、アグラの無秩序がインド全体を代表しているのだ。効率性や生産性は当然チャンディガルの方が高いのだが、無秩序の中に身を浸していると徐々に体感されてくるリズムのようなものに壮絶なエネルギーを感じるのである。このリズムがあるからこそ、あれだけの大混乱の中でも社会は回り、インドは人を惹きつけるのだろう。
Web2.0は爆発するのか
話を転じてニューズウィーク誌日本母版の『ウェブ2.0爆発は秒読み』について紹介したい。この記事は、その副題『金融危機の衝撃波で「お気楽IT企業」に終焉の危機』からも読み取れるように、今般の金融危機のWeb2.0系企業への影響を論じたものである。記事はfacebookやTwitterなどを取り上げて、そのビジネスモデルの薄さを批判し、そのほとんどがこれからキャッシュの枯渇により潰れるだろうと予測する。そして、「ウェブ・ドット・ツー・オー」が「ウェブ・ツー・ドット・オーバー」へと向かうのだと皮肉な締めくくりで記事を終えている。
たしかにイグジットとしての上場や買収が減少するなかでベンチャー・キャピタルへの資金流入が細り、結果としてベンチャー企業が多いWeb2.0系企業の資金繰りが悪化するケースは増大するだろう。しかし、それ自体は「ウェブ・ドット・ツー・オー」が「ウェブ・ツー・ドット・オーバー」となることを意味しない。現在の経済状況はWeb2.0系企業に限らず、広く企業全般の資金繰りに影響を及ぼしているのであって、何もWeb2.0系企業のみが苦境に陥る訳ではないのだ。
カオス型ビジネスとしてのWeb2.0
インドのカオスから感じたことの1つは、Web2.0ビジネスの多くに、カオスから一定の秩序を見出すことを付加価値としているものが多いことである。例えば検索エンジンは、インターネット上の雑多な情報群に一定の秩序をもたらすことを付加価値としているし、SNSはバラバラに存在する個々人をサイト上で結び付け、一定の繋がりを作っていく。一見混乱しているものに対して、一定の秩序をもたらすことで、エネルギーに転換していくのである。その効率性は決して高いものではないのかもしれないが、その量が膨大であるが故に、生み出される力は非常に大きいものとなる。そういう意味において、Web2.0系企業のいくつか、もしくは多くがこの不況の中で消滅するかもしれないが、Web2.0が生み出すであろう可能性は消滅することはないだろう。
インドは現在、その経済成長に見合ったインフラ作りに躍起になっており、主要都市で高速道路や地下鉄の建設などが進められている。これは計画的に進められているものであるが、一方で膨大な量の無秩序が存在し続けている。インドのパワーというのは、そのインフラが整備されていないところ、つまり無秩序の生み出すリズムの中にこそあるように感じるのだ。その点において、インドはWeb2.0型国家なのである。インドの将来は、それを完全な秩序の下に置くことよりも、その秩序と無秩序をバランスさせるところにあるだろう。