仲の悪いネットベンチャー業界
以前、グリーがディー・エヌ・エー(DeNA)を訴えたという話があったが、ネットゲーム業界での裁判沙汰は日本に限らないようだ。「BusinessWeek」誌11月2日号の特集「THE APP ECONOMY」によると、今年9月、「FarmVille」で有名なZyngaが、その競合であるPlaydomに対して裁判を起こしたという。その理由は、Zyngaの元従業員がそのゲーム開発のノウハウをPlaydomに持ち込んだというもの。
オンラインゲームの業界は、そのプラットフォームであるSNSサイトやスマートフォンを主戦場としてユーザー獲得を競うが、プラットフォームそのものを構築するわけではないので参入障壁は低い。しかも、ヒットが出ると、すぐに類似したゲームが登場する。グリーとDeNAも釣りゲームで争っていたし、FarmVilleに類似したゲームはmixiにも存在する。こうしたマーケットでは、商品のコモディティ化のスピードが速く、競争は熾烈を極める。
仲の良いネットベンチャー業界
ネットベンチャー同士が仲の良いフィールドもある。それは金融ネットベンチャーである。過去の連載でも何度か取り上げたソーシャルレンディングを提供する企業が一緒になってキャンペーンを展開している。本来、融資の成約残高の拡大を競うソーシャルレンディングのサービス会社同士であり、それぞれに似た要素もあるのだが、お互いを訴えるどころかお互いを支援する行動に出ている。
このソーシャルレンディングの市場は、ネットサービスでありながら、融資あるいは投資としての色彩を帯びるために、当局の規制の対象となる。しかも、そもそも規制自体がソーシャルレンディングを想定していたわけではないので、既存の枠組みの中でソーシャルレンディングを規制しようとするので話がややこしくなる。
要は、同じネットベンチャーでありながらも、オンラインゲームに比して参入障壁が非常に高いのである。しかし、乗り越えるべき障壁の高さと、市場そのものの拡大の必要性から、競合他社同士が協調するということが発生する。
どっちが得か
先のBusinessWeek誌によれば、AppStoreのゲーム数はすでに10万を超え、オンラインゲームの市場規模は1000億円程度と推測している。また、オンラインゲームはこれまでに存在していなかった新しいプラットフォームの上でオープンな戦いを演じることができるが故に、誰でも参入できる一方で、その競争は完全競争に近いものとなる。
一方のソーシャルレンディングの市場では、米国証券取引委員会への登録のために、各社が業務停止に追い込まれたりとなかなか軌道に乗っていないのが実情だ。また、新しいビジネスモデルではありながら、融資と投資という既存の金融ビジネスのコアへ切り込んでいくものであり、参入者同士の競合以上に、既存プレーヤーからどう顧客を獲得するか、あるいはそれらと住み分けるかがポイントとなる。
参入するならどちらが得だろう。オンラインゲームの世界はスピードとアイデア勝負。勝つか負けるかは運の支配する部分も多い。ソーシャルレンディングは金融という相対的には地味な領域であるが、既存ビジネスや既存の枠組みに挑戦する点が面白い。偶然性よりも戦略性が問われるだろう。どっちが得というよりは好みの問題かもしれない。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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