TechCrunchの記事で、ディスカウント率と集客距離の関係に関する調査結果がレポートされている。その調査というのは、100ドルの商品がどれだけディスカウントされれば、どれだけ遠くまで買い物に行くかを調べたものである。例えば、10%のディスカウントであれば、およそ半数の人は15分の距離までなら出掛けても良いとする一方、2時間掛かるところとなると、75%ディスカウントでも行っても良いとするのはわずか28%である。
簡単に言えば、遠い距離を来て貰うには高いディスカウント率が必要で、近い距離ならば少ないディスカウント率でも良いという、当然と言えば当然の結果である。ただし、ここには消費者の“オポチュニティコスト”という重要な概念が存在している。100ドルの商品を判りやすく1万円に置き換えると、10%、つまり1000円のディスカウントを得るために15分掛けても良いと判断する人たちがいる。
これは、時間当たり4000円の価値が得られるならば、他に取り得る選択肢(オポチュニティ)を捨ててでも、この商品を買いに行っても良いということである。つまり、このケースだと消費者のオポチュニティコストは、時間当たりおよそ4000円ということになる。
一般的にディスカウントの広告というのは、個々人がどのくらいの移動時間を掛けてくるのかは想定されていない。個々人によって差別化が図られているとすれば、むしろ、その顧客のその企業に対するロイヤルティであるとか、過去の購買であるとかに紐付いており、購入するために掛ける移動時間、つまりオポチュニティコストまでは勘案されていない。
ところが、現在のように物事がオンラインで済むことが多くなってくると、わざわざ出掛けてまで購入するという行為に何らかのリワードがあっても良いのではないかと思うのである。これを活用するのが、オポチュニティコストのマーケティングである。
商品を購入する時の値段というのは、まずは、それが消費者にもたらすであろう価値との対比で吟味されることになるが、そこに、わざわざ遠くからやって来ただけの努力が加味されて提示されれば、個々の顧客が購入のために費やしたオポチュニティコストが価格に盛り込まれることとなる。
そのためには、顧客の住所などの情報に基づいて移動距離に応じたディスカウントクーポンを発行したり、あるいは、チェックイン機能などを使って移動距離を測定することが必要とはなる。また、収益を最大化するために、どこまでディスカウントするのか、シミュレーションしなくてはならない。
ただ、購買に移動が不要となりつつある時代、オポチュニティコストの概念をマーケティングに組み込むことで、売り上げと収益をストレッチできることは間違いないだろう。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。