第1部:人間味の欠如
自社のCEOを表現する言葉を10個あまり提示されて、「思いやりのある」とか「温かみのある」という単語を選ぶ従業員は5人に1人しかいない(一方、CEOが自分の特性を表す単語を選ぶように言われた場合にこれらの単語を選ぶケースが2倍も多かったが、それほど驚くべきことではない)。さらに、調査に協力してくれた従業員のほぼ半数が、思いやりと意思疎通の両方の項目でCEOにC、D、またはFの点数をつけた。BNETの調査は、人と接する技術という点でCEOが合格点にはるか及ばないことを示唆している。
好きな点と嫌いな点の上位
マネージャーたちはCEOのビジョンを高く評価しているが、意思疎通のスタイルはそれほど評価していない。
「これは大きな問題だ」とCEOのための会員制組織であるVistage InternationalのCEOであるRafael Pastor氏は言う。「CEOたちは従業員に刺激を与える、または従業員に自分たちが重要で価値のある存在であると感じさせるという点では十分な仕事をしていない。彼らの人間関係のスキルはビジネスのその他のスキルほどには磨かれていない」(Pastor氏)
スタンフォード大学の経営科学の教授で、「The No Asshole Rule: Building a Civilized Workplace and Surviving One That Isn’t」という著書を最近出版したBob Sutton氏はこれらの項目で成績が悪いことにも驚かなかった。「人々が権力を手にすると、周囲の人間のニーズよりも自分のニーズを重視するようになることを示す社会心理学の調査がたくさんある。権力を手にした人間は世間知らずになる傾向があるのだ」(Sutton氏)
CEOが対人スキルを向上させる方法はいろいろあるが、その要点は次の単純な助言につきる。あなたがCEOなら、重役室から一歩外に出て自分のために働いてくれている人々と実際に会って話す時間をより多く確保しなければならない。BNETの調査結果を解析すると、CEOと定期的に交流を持っている従業員はCEOの仕事ぶりを非常に高く評価していることがわかった。
「こうした人間関係のスキルで評価が低い場合、まず尋ねたいことは、あなたは従業員とどれくらい個人的な接触を持っていますかということだ」と経営学の教授であるWilliam Wallick氏は言う。「CEOが従業員の日常生活の中で1人の人間としてその存在感を発揮できずにいると、従業員はうわさで聞いた話からCEOに対する印象を持つようになる可能性が高い。残念ながら、うわさで流れるのは悪い話ばかりだ。人々は上司が好人物であるときにはうわさをしない。人々がうわさをするのは、CEOが失敗したりひどい間違いを犯したりしたときだ」(Wallick氏)
急に好人物に変身しても一般従業員の嗅覚テストに合格する可能性は低いと複数の専門家が注意を促す。あなたの性格を本当に反映したものでない限り、これまでなかった温かい人物像をことさらに作ろうとしないことだ。「最善なのは、あなたの対人関係の振る舞いを変えることではなくて、自分をもっと見せることだ」とビジネスイノベーションの研究者でコロラド工科大学でも教えているDavid Gliddon氏は助言する。従業員との交流を重視する経営スタイルは、握手したり激励したりすれば十分というわけではない。CEOが低い地位の従業員から得たフィードバックを意思決定のプロセスに生かさなければ、従業員は友好的な態度はうわべだけのものにすぎなかったと思うようになるだろう。