1999年、Peter Drucker氏は、IT革命の対象はテクノロジであって情報ではなかった、と書いた。彼は正しかった。
この50年間、ITの恩恵を受けたのは、主にデータの収集と保存、伝送、解析、プレゼンテーションといった分野であって、情報そのものではない。Drucker氏は、次世代の情報革命では、情報の意味とその用途が問われることになることを的確に予測していた。
今まさに、次世代の情報革命が進行している。それは、コンピュータハードウェア、半導体、ソフトウェアといったテクノロジの革命ではない。適切な情報を適切な人に適切なタイミングで提供することのニーズにこたえることを目指した、情報の革命である。こうした境界のない新しい情報の流れを実現するには、オープンな標準を基盤とする技術的なインフラが必要となる。すなわち、すべての個人とそのITシステムが協調動作できるように設計されたインフラである。
しかし、それには、そうした優れたアーキテクチャを開発実装する優れたアーキテクト(設計者)が必要である。
ここでいうアーキテクトとは、都市計画設計者のような視点で企業を見ることができる人間を指している。こうした新種のITプロフェッショナルは、自社内のあらゆる階層に属する部門と効率的にコミュニケーションを図ることができる能力を備えていなければならない。と同時に、ITと具体的なビジネスの目標とを関連づけるために必要な詳細な手順だけでなく、全体を俯瞰して伝える能力も必要だ。当然ながら、こうした能力を備えたエンタープライズアーキテクトたちは、会社にもたらす価値という観点から、単なる開発者よりも高く評価されるようになってきている。
こうしたエンタープライズアーキテクトは、成熟した真のプロフェッショナルとして登場してきてはいるものの、必要な資格を持ったアーキテクトはまだまだ不足している。
最高情報責任者(CIO)はチームのメンバを構成するとき、一般に認められているプロとしての基準を満たす経験を積んだエンタープライズアーキテクトを探すことを要求されている。企業は、会計士や弁護士を採用するとき、さまざまな資格を求める。CIOも同様の厳しさをもってIT部門のメンバを採用するようになってきている。そして、それが、プロとしての資格を持ったエンタープライズアーキテクトを採用するという傾向に拍車をかけている。
大手ITコンサルティング企業やエンドユーザー向けの企業の中には、IBM SoftwareグループやHPのサービス部門、Capgemini、Lufthansa Cargo、Austin Energy、Scottish Powerのように、自社のエンタープライズアーキテクトを養成するための認定プログラムの策定を検討するところが増えてきている。
こうした企業は最初、独自の認定プログラムを開発していたが、そうした固有のプログラムでは管理費用がかさむうえに、何より適正な人材を採用するという難題が解消されなかった。そのため、今では、エンタープライズアーキテクトのスキルと能力を認定するための基盤となる業界標準を受け入れるようになってきた。
The Open GroupのIT Architecture Certification (ITAC)は、そうした業界標準の認定プログラムとして1年前に開発された。現在、1500人以上がこの資格を取得している。その数は日々増え続けており、このことはこうした人材へのニーズの高さを物語っている。
エンタープライズアーキテクトはIT業界の転換期において極めて重要であり、次世代の情報革命をリードしていく存在になるだろう。
しかし、エンタープライズアーキテクトによるIT革命を継続していくには、次の4つが必要条件となる。すなわち、高水準の専門知識、ベストプラクティスの認識、スキルと経験の認定、アーキテクトが集まって知識を共有するためのフォーラムの4つである。幸いにも、これらは既に存在している。実際、The Open Groupは、2007年早々、業界初のエンタープライズアーキテクト組合を設立する予定だ。
これからの企業は、エンタープライズアーキテクチャで起こっているイノベーションを認識し、それに沿って変革を進めていかなければ、衰退することになるだろう。テクノロジではなく情報に継続的に注力していくために、CIOは、境界のない世界でビジネスを構築するためのチームを組織していく必要がある。
われわれは今、転換期にいる。やがてはエンタープライズアーキテクチャが確立し、次世代の情報革命を担う存在になるだろう。
著者紹介
Allen Brown
非営利コンソーシアムThe Open Groupの社長兼CEO。The Open Groupは、オープンな標準とグローバルな相互運用性を基盤とする企業内および企業間の統合化情報へのアクセスを実現することを目指している。