デジタル広告技術を手がけるフリークアウト・ホールディングスは、「人に人らしい仕事を」という方針のもと、データ活用やマーケティング領域で、テクノロジーをより良い働き方につなげるための取り組みを推進している。パートナーとのビジネスや働き方の変化などについて、代表取締役社長 Global CEO(最高経営責任者)の本田謙氏に聞いた。
フリークアウト・ホールディングス 代表取締役社長 Global CEOの本田謙氏
同社は、米国で登場したインターネット広告の広告枠の入札や配信をリアルタイムに行うリアルタイムビディング(RTB)に注目した本田氏が2010年に創業した。本田氏にとって2度目の創業であり、最初に創業したのもインターネット広告企業だった。その会社は大手ポータルサイトに買収され、本田氏自身は大手企業がインターネット広告技術をリードする時代になると考えていたそうだ。
しかし、2008年に発生した金融危機(リーマンショック)によって世界が深刻な経済不況に陥り、インターネットへの広告出稿が激減した。その頃までは、ウェブサイトにバナーなどの広告を掲載するというスタイルそのものの新しさが注目されたが、その裏側ではいつ、どこに、どのような広告を出せば認知度を高められるのかといったノウハウは属人的であり、広告主もメディアから広告枠を取りまとめて広告主に提供する代理店も、その大半の作業を人手に委ねざるを得ず、担当者は連日・連夜の業務に追われる状況であった。
そうした中でRTBは、人に依存していた広告運用の多くを自動化し、広告効果を最適化するテクノロジーとして注目を集め、本田氏は当時まだ日本では珍しかったRTBを提供すべくフリークアウトを立ち上げた。「負担の大きい業務から人々を解放し、クリエイティブや顧客への適切なリーチなど本来なすべき仕事に取り組めることを実現したいとの思いだった」と話す。
その後は、スマートフォンの本格的な普及あるいはデジタルサイネージなど新しい広告媒体の広がりなどを背景に、デジタル広告技術は目覚ましいスピードで発展と進化を続けている。例えば同社は、2016年にJapanTaxiと合弁でIRISを設立し、全国で約5万台のタクシーの車内に設置したタブレット端末を通じた広告配信事業を展開する。消費者との新しい広告接点を生み出すことに加え、QRコード決済などの新しい仕組みを取り入れ、ドライバーが乗客を安全に目的地まで送り届けるという本質的な業務に専念できる環境を推進している。
テクノロジーは本来、人がより良い生き方を実現できる手段であり、その本質をミッションに掲げる企業は少なくない。昨今では世界的なバズワードと化している「デジタルトランスフォーメーション(DX)」も、本来はテクノロジーを活用して人や企業、ビジネスといったものをより良いものに変えて行こうという概念だ。しかし、テクノロジーという手段を使うことがDXの目的になってしまっている状況も散見される。テクノロジーの進化のスピードもあまりに早く、「テクノロジーが人間らしさを奪う」という批判的な見方がなされてしまう風潮すらある。
「AI(人工知能)によって人の仕事が奪われてしまうといったマイナスのイメージを持つ人もいるが、テクノロジーは人がわずらわしいと感じていた仕事を肩代わりし、人がもっと本当に取り組みたいことに専念できるようにする存在。その考えのもと、DXがバズワードになる以前からテクノロジーに取り組んでいる。テクノロジーは変化をもたらすが、その変化を恐れないでほしい」
「人に人らしい仕事を」の方針に基づく新たな取り組みでは、グループ企業のJentが独自のチャット会話エンジンを用いたオンライン接客の仕組みの提供を不動産業界向けに開始した。この仕組みでは、LINEのチャット機能を使って不動産物件への問い合わせから内見の予約までの大部分をシステム化することで、不動産会社の担当者の業務効率化を支援する。
本田氏によれば、問い合わせの95%をシステムで対応しつつ、システムでは難しい残りの5%を人のオペレーターが対応するハイブリッド型とすることで、自動化ときめ細かい顧客対応の両立を可能にしているとのこと。「オペレーターで働く人も在宅や海外など場所を柔軟に選ぶことができる。不動産会社はクラウドソーシングなども活用でき、担当者は内見以降の接客に集中できるようになる」という。チャットでの顧客とのやりとりのデータを活用することで会話応対の精度を向上させ、さらなる効率化の貢献につなげていくとしている。
DXを推進していく大きなポイントの1つは、データの活用になる。デジタル広告なら広告効果をさらに高めたり、見込み顧客として広告主との接点にまでつなげたりするために、配信以降の状況をデータで確認しながら仮説と検証を繰り返して次なる施策を打つ。同社としては、広告主やビジネスパートナー側が目的に専念できるために、同社側からデータの提供を求めることも多いという。
一方で、デジタル広告技術の進化ぶりは、消費者やサービス利用者などのプライバシーに抵触しかねない状況をもたらし、ターゲティング手法による消費者やサービス利用者の追跡が相手に心理的不安を与えるまでになってしまった。このためウェブブラウザーベンダーなどは、プライバシーを侵害することなく個々の消費者やユーザーに応じて適切なリーチができる新たなテクノロジーの開発や利用の在り方を模索するようになった。
本田氏は、同社のスタンスでは、プライバシーに抵触するようなテクノロジーの一切を利用しないことにしているとのこと。「ユーザーを追い回すようなものであってはならない。例えば、ウェブサイトのフォームからチャットでの対話を通じて成約につなげていくスムーズな仕組みを実現させるなど、テクノロジーの使い方を工夫していく」と話す。