カーボンニュートラル(脱炭素)

ナッジ活用で家庭のCO2排出量を4万7000トン削減--環境省と日本オラクルらが実証

藤本和彦 (編集部)

2021-06-30 07:00

 日本オラクルと住環境計画研究所は、日本の二酸化炭素(CO2)削減目標を達成するための環境省の取り組み「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭等の自発的対策推進事業」の委託を受け、2017~2020年度まで実証事業を行った。

(左から)日本オラクル 執行役社長 三澤智光氏、環境省 ナッジ戦略企画官 池本忠弘氏、日本オラクル Oracle Utilities Global Business Unit Opower日本代表 小林浩人氏、住環境計画研究所 研究所長 鶴崎敬大氏
(左から)日本オラクル 執行役社長 三澤智光氏、環境省 ナッジ戦略企画官 池本忠弘氏、日本オラクル Oracle Utilities Global Business Unit Opower日本代表 小林浩人氏、住環境計画研究所 研究所長 鶴崎敬大氏

 この取り組みでは北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力の5社の供給エリア約30万世帯を対象に、家庭ごとにパーソナライズされたエネルギー使用情報やアドバイスから成る省エネレポートを提供。全国から5社のエネルギー事業者が協力し、4年間にわたり30万世帯に大規模な実証を行ったことは、日本初となる。

 このプログラムにより平均2%の省エネ効果が確認され、4年間の累積CO2削減量は4万7000トンとなった。レポートの提供終了後も省エネ効果の持続が確認されており、今後の累積CO2削減量は11万1000トンにまで及ぶことが推計されている。これは、4万1000世帯の年間CO2排出量に相当、または約13万5000台の冷蔵庫の買替効果に相当するとしている。

 実証では、オラクルの家庭顧客向けエネルギー効率化ソリューション「Oracle Utilities Opower Energy Efficiency Cloud Service」を日本の生活・文化に合わせて再構成。また、「ナッジ」と呼ばれる行動変容を促す手法も取り入れた。

 環境省 ナッジ戦略企画官 池本忠弘氏によると、ナッジとは、行動科学の知見の活用により、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法。人々が選択し、意思決定する際の環境をデザインし、それにより行動をデザインすることができるという。選択の自由を残し、費用対効果の高いことを特徴として、欧米をはじめ世界の200を超える組織が、環境・エネルギー、健康・医療、徴税、働き方改革など、あらゆる政策領域でナッジなどの行動科学の知見を活用している。

 日本では、2017年4月に日本版ナッジ・ユニットが発足し、環境省のナッジ事業が開始した。2018年以降は、成長戦略や骨太方針などにナッジの活用が環境省事業とともに位置付けられているという。政府は脱炭素社会の実現に向け、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにし、また2030年度までに2013年度比で46%削減するという目標を表明している。

 池本氏は「環境省ではCO2排出削減の目標達成に向け、自発的かつ無理のない行動変容を促している。日本オラクルと住環境計画研究所は、エネルギー供給事業者と強力な連携体制を構築し、その中で行動科学を応用したナッジによる国内最大規模の実証事業を実施した結果、大きな成果と高い評価が得られている。事業期間中に多くのCO2排出を削減したことはもとより、ナッジは持続しないとも言われる中で、適切なナッジによりナッジをしなくなってからも少なくとも1年以上にわたり効果が持続することを実証したことは特筆すべき点である」とコメントする。

 日本オラクルと住環境計画研究所は共同で、エネルギー事業者5社の協力のもと、Oracle Utilities Opowerを用い、全国約30万世帯にパーソナライズされた行動科学の知見とデータ分析を活用した省エネレポート「Oracle Opower Home Energy Report(HER)」を提供した。オラクルは、世界で175社のエネルギー事業者と行動変容による省CO2ナッジプログラムの実績を有し、日本オラクルが今回の取り組みにおいて全体統括とプラットフォームの設定/運用を担当した。住環境計画研究所は日本における行動変容による省エネ・省CO2プログラム研究の第一人者として、多数の調査研究プロジェクト実施実績を有しており、今回はプログラム・調査設計、効果測定・検証を担当した。

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 プロジェクト全体を通じて、エネルギー事業者5社の供給エリア約30万世帯を対象に、地域に応じて郵送による紙レポート、LINEやモバイルアプリ専用のコンテンツ、オリジナルキャラクターを掲載したレポートなどさまざまな種類の省エネレポートを提供。各レポートには、料金、エネルギー使用状況と月次比較、パーソナライズされたエネルギー消費に関するインサイト、家庭のエネルギー分析、エネルギーと料金節約のためのアドバイスなどが記載された。

 主な実証結果は下記の通り。

  • Oracle Opower HERを提供しない家庭と比較し、プロジェクト全体を通じて、最大2.8%のCO2削減効果を達成し、4年間で4万7000トン、持続効果を含めると11万1000トンのCO2排出量を削減
  • Oracle Opower HERを受け取った顧客世帯の認知は約80%、閲覧は約70%、興味は約40%、具体的行動は約30%と高い反応率を確認
  • Oracle Opower HERを受け取った顧客世帯の約30%が、エネルギー事業者のイメージ変化について、「よくなった」と回答し、エネルギー事業者の顧客エンゲージメントの強化にも貢献
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 このプログラムは、エネルギー事業者の顧客満足度とCO2削減の点で成功を収め、委託事業が2021年3月に終了した後も、北海道ガスと沖縄電力は、顧客満足度を高めるコミュニケーション施策にOracle Utilities Opowerを活用している。

 日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏は、オラクルのサステナビリティーへのコミットメントを紹介。「2025年までに、全世界のオペレーションを100%再生可能エネルギーで行う」と述べ、Oracle Cloudの運営では欧州の全てのリージョンが、ファシリティーの運営では51のオフィスが100%再生可能エネルギーを既に利用中であることをアピールした。

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