本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏と、ガートナージャパン ディスティングイッシュト バイスプレジデント, アナリストの亦賀忠明氏の発言を紹介する。
「新オフィスをロールモデルとしてSAPグローバルに広げていきたい」
(SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏)
SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏
SAPジャパンは9月5日、東京・大手町の新オフィスで業務を開始したのに伴い、メディアに内部を公開するとともに、特徴的な設備やそれらを活用した新しい働き方について記者説明会を開いた。鈴木氏の冒頭の発言はその会見で、SAPグローバルからデザインなどについての制約はなく、むしろ新たな働き方を実現するオフィスのロールモデルとしてSAPグローバルに広げていきたいという意気込みを示したものである。
新オフィスは、SAPが2021年6月にグローバルで掲げたニューノーマル時代における新しい働き方の方針「Pledge to Flex」に基づいて具現化したという。Pledge to Flexは、「Flex Location」(勤務地の柔軟性)、「Flex Time」(働く時間の柔軟性)、「Flex Workspace」(働く場所の柔軟性)の3つを軸としており、新オフィスはFlex Workspaceの実現を目指した取り組みである。
鈴木氏はこの点について、「SAPはPledge to Flexを通じて、従業員一人一人が働きがいをフルに実感して最高のパフォーマンスを発揮できる環境の提供を目指している。働きがいとは、従業員が自らの仕事に対して情熱や意欲、モチベーションを高く持つことだと思っている。新オフィスは単なる就業スペースではなく、Pledge to Flexを通じてリモートワークと両立する柔軟な働く場所の実現を目指していることが大きな特徴だ」と強調した。
その実現に向けて、新オフィスはSAPジャパンとしてさらに図1に記した3つのコンセプトを打ち出し、これらを具現化するための取り組みとして、「進化し続けるオフィスレイアウト」(図2)や「従業員のウェルビーイングをサポートするオフィス」など4つの取り組みを明示した。
図1:新オフィスの3つのコンセプト(出典:SAPジャパン)
図2:進化し続けるオフィスレイアウト(出典:SAPジャパン)
この4つの取り組みなど会見で説明があった内容については速報記事をご覧いただくとして、筆者が今回の新オフィスをめぐる話で注目したのは、Pledge to Flexという方針に則っているだけでなく、実際のオフィスづくりにおいても基本的なデザインやコーポレートカラーの使用など、SAPグローバルとしての制約があるのではないかということだ。実際、グローバル企業ではブランドイメージの統一を図る意味から制約があるところも。つまりは、今回のような新オフィスづくりにおいて、グローバル企業の代表格であるSAPでは現地法人にどこまでの裁量を与えているのかということだ。この点について、鈴木氏は次のように答えた。
「Pledge to Flexに則り、具体的なオフィスづくりはSAPジャパンで進めた。もちろん、その過程ではSAPグローバルとも緊密にやりとりしてきた。SAPグローバルの中でも働き方改革に向けた新オフィスづくりは日本が先駆けとなるので、むしろSAPジャパンの取り組みをロールモデルにしてSAPグローバルに広げていきたいと考えている」
冒頭の発言はこのコメントから抜粋したものである。その心意気や良し。2020年4月にSAPジャパンの社長に就いた鈴木氏は、これまで2年半、まさしくコロナ禍のマネジメントに終始してきたが、その経験をニューノーマル時代にどう生かしていくか。注目していきたい。