アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は3月22日、金融戦略記者説明会を開催した。
2006年に稼働を開始したクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)は、2011年に東京リージョン、2021年に大阪リージョンを開設。両リージョンへの2011年からの累計投資額は1兆3510億円に達すると執行役員 エンタープライズ事業統括本部 金融事業/ストラテジックアカウント/西日本事業本部 統括本部長を務める鶴田規久氏は述べる。
金融ビジネス戦略として「Vision 2025」を掲げる同社は現在、ノンクリティカルシステムのための低コストインフラという第1ステージ、金融ITを効率化するインフラプロバイダーという第2ステージを経て、金融ビジネス変革のパートナーという3番目のステージにある。
同社は、「Business Model Reinvention(既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦)」「Engagement in New Normal(新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築)」「Engagement in New Normal(予測できない未来に耐え得る回復力の獲得)」、そして、「Organization and People to Drive Transformation(変革を実現する組織と人材の育成)」という4つの課題について、提案を進めている。
2022年には、金融に求められるセキュリティや可用性に関わる共通機能をテンプレート化した「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」を発表。AWSを活用したベストプラクティスのサンプル実装を提供することで、金融情報システムセンター(FISC)に準拠したセキュリティや可用性の実装に関わる負担を軽減することが目的だという。
AWS導入は日本の金融機関で進んでおり、裾野が広がっていると鶴田氏。SBIグループがビジネス戦路拡大に向けてAWSとの連携強化を2022年に発表している。
鶴田氏は、「先に述べた課題の観点から提供価値を届けている。それぞれのサービスにおける当社の提案を継続している」とし、事例を紹介した。
「既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦」では、日本取引所グループ(JPX)のJPX総研がカーボンクレジット市場の創設でAWSを活用している。このプロジェクトでは、4カ月たらずという短期間での開発、多様な要件をスピーディーに取り込む必要性、開発中の新たな要件追加・変更リスクが高く内在するといった特殊性から「AWS環境への構築が最適」と判断したとJPX総研の執行役員で日本取引所グループの次期執行役最高情報責任者(CIO)である田倉聡史氏は説明する。
AWS活用の効果としては、AWSが提供するマネージドサービスを活用することで、テナントとしてアプリケーション開発に専念できたことを田倉氏は挙げる。また、Infrastructure as Code(IaC)ツールを活用し環境追加を即座に実施するなど、柔軟性とスピード感を併せ持った高速開発も実現できたという。併せて、インクリメンタル開発手法の採用により、全機能の構築まで待たず、機能ごとにシステムテストを回すことで開発期間を圧縮できたと同氏。
今後の取り組みとして、JPXとAWSを中核とするエコシステムの構築・拡大を実現するため、AWSとの協業を発表している。JPXの共通基盤プラットフォームである「J-WS」をAWS上に構築し、「データ・デジタル事業」分野のサービスを安定的に運用する。また、AWSと共同でタスクフォースを設置することで、よりミッションクリティカルな分野への利用拡大も視野に、技術的な観点では補えない課題や論点を整理し、解消していく。
この課題の別事例である三菱UFJ信託銀行では、AWSを活用してデジタルアセットの発行・ 管理基盤である「Progmat」を要件定義から約6カ月で開発した。クラウドのスケーラビリティーを生かし、2023年に設立を計画するパートナー企業との合弁会社にて、Progmatをデジタルアセットの業界標準基盤とし、日本のデジタルアセット市場の発展と競争力を高めることを目指す。