本特集「ビッグデータとは何か」では、これまでビッグデータの機会と課題、テクノロジ、各ベンダーの戦略を解説してきた。
今回はOracle、IBM、SAPといったメガベンダーの「ビッグデータ」戦略について分析しよう(なお、スペースの都合上、Microsoftを含むクラウド系のベンダーや国内ベンダーについてはは次回以降で分析する)。
アプライアンスで「ビッグデータ」市場に攻め込むOracle
本連載の今までの内容から「ビッグデータ」はまったく新しい市場ではなく、過去のデータウェアハウスやアナリティクスの分野と重複する部分が多いと述べてきた。そういう意味ではデータベースの巨人Oracleは「ビッグデータ」市場においても既にビッグプレイヤーである。分析ソフトという点でも、買収によってEssbaseやHyperionなどの強力なポートフォリオを獲得している。
OracleはSun Microsystemsの買収によりデータベースベンダーであると共に総合システムベンダーともなった。ハードウェアからアプリケーションソフトウェアに至るまでのエンタープライズITの全階層を1社で提供できるのは、国内ベンダーを除けばOracleだけだ(Microsoftはハードウェア階層を提供していないし、IBMはエンタープライズアプリケーション階層を提供していない)。
ここ数年間、同社はアプライアンス製品に強くフォーカスしている。一般に、アプライアンスと言えば、単にソフトウェアと汎用ソフトのバンドル販売を意味することもあるが、Oracleは「エンジニアドシステム」の名の下に「作り込みされたシステム」を推進している。
かつてはIT業界において「水平は垂直に勝つ」というテーゼがあった。ベンダーは、複数の階層に経営資源を分散するよりも、特定階層にフォーカスした「ベスト・オブ・ブリード」の製品を提供し、顧客やインテグレーターに複数ベンダーのテクノロジーを組み合わせたソリューションを構築してもらった方が有利ということである。しかし、IT市場そしてテクノロジの成熟化により、必ずしもこの公式は成り立たなくなっている。
Oracleの「エンジニアドシステム」の推進は、水平分業型モデルに対するアンチテーゼである。実際、他の水平分業型ベンダーも、程度の差こそあれ、元々得意としていた階層を離れて他の階層に進出するケースが増えている(たとえば、EMCのソフトウェア分野への進出やCiscoのサーバ分野への進出など)。今後のIT業界では当面の間、垂直統合型と水平分業型のモデルが拮抗した状態が続いていくことになるだろう。
最近まで「ビッグデータ」分野ではあまり目立った動きを見せていなかったOracleも、「エンジニアドシステム」へのフォーカスの一環として、2011年10月にその名も「Oracle Big Data Appliance」という「ビッグデータ」に特化したアプライアンス製品を発表した。
具体的には、Oracle NoSQL Database(Berkeley DBというNoSQLデータベースがベースになっている)、そしてApache Hadoopを中心にオープンソースの統計言語Rなどの関連ソフトウェアをパッケージ化し、Exadataと同等のハードウェア上で稼働する製品だ。「エンジニアドシステム」とは言えOracle独自の要素は少なくオープン性が高い。
単独でも「ビッグデータ」の獲得、統合、分析が行えるとしているが、OracleのDBMSやデータウェアハウス向けアプライアンスExadataとの連携も強調されている。「ビッグデータ」分野でも中心はRDBMSというOracleの戦略が伺える。
なお、本連載の今までの回でも述べてきたように、この戦略は(大規模ネット事業者ではない)一般企業の「ビッグデータ戦略」としては現実的であると考える。