自家発電からコンセントの利用へ--東京海上がHPのクラウド採用

冨田秀継 (編集部)

2012-10-09 20:08

 自家発電から電力会社のコンセントに移った方がほうが良い——。

 日本ヒューレット・パッカード(HP)が10月9日に開催した「HP Converged Cloud Summit」で、同社のクラウドサービスを採用した東京海上日動火災保険 常務取締役の宇野直樹氏は、IT部門の伝統的な開発・運用体制と現代のクラウドサービスとの違いをこのように表現してみせた。

 東京海上は先般、メールシステムを日本IBMの「Lotus Notes」からExchangeベースのメールサービス「HP Enterprise Cloud Service - Messaging(ECS-Messaging)」に移行させることを決めた。国内4万2000のメールボックスを対象とした移行で、クラウドサービスの採用によるITコストと運用負荷の削減、システムのサポート切れからの解放、グローバル化を見据えた上での採用となった。

東京海上日動火災保険 常務取締役の宇野直樹氏
東京海上日動火災保険 常務取締役の宇野直樹氏

 サービスは国内のデータセンターから提供。広域災害に備え、プライマリを東京、バックアップを九州に置く配置とした。また、日本HPは東京海上のような金融機関に求められるセキュリティや監査の機能も提供する。東京海上ではクラウドサービスの採用によって、「5年に1度の(システム)更改からの解放」(配布資料から)が実現したとする。

「まだ(導入は)始まっていない。きっと来年、今年度末になれば大いに効果を発揮して頂けるものと思います」と宇野氏は言う。

 ポイントは、パブリックとプライベートの中間に位置するマネージドクラウド「ECS」を選択したという点だ。マネージドサービスは、ハードウェアやソフトウェア資産を顧客が所有せず、運用管理も日本HPが担当する形式。プライベートクラウドでは資産を所有することになるが、マネージドクラウドでは“自社専用のサービス”をパブリッククラウドのように利用していくことになる。

 宇野氏は「私たちのIT部門が何をしているか——それはハードウェアとソフトウェアを調達し、それをいかにうまく組み合わせて効率良くやるか、その設計をやっている。いわば自家発電をやっているようなもの」と、これまでの開発・運用体制を振り返る。電力をコンピュータ資源の供給力と考えると、すべてを社内の発電だけでまかなっているという比喩だ。国内だけであれば今後も「自家発電し続けることは可能だ」とも言う。

 しかし近年事業を立ち上げたインドネシアでの経験などを踏まえれば、人材確保などの面で自社で発電し続けるのは難しいと指摘。そのため、「汎用的なもので、なおかつワールドワイドに展開でき、セキュリティも要求水準を満たしてくれるサービスに移った方が良い」と考え、冒頭の「自家発電から電力会社のコンセント(=HPのクラウドサービス)に移った方がほうが良い」と判断した。

 日本HPでは、サミットの出席者にHP Pressが刊行する『Cloud Computing: Beyond the Hype』(Paul McFedries著)を配布。同書には冒頭、『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』や『クラウド化する世界〜ビジネスモデル構築の大転換』で著名なニコラス・G・カー氏の著作『ザ・ビッグ・スウィッチ』からの引用が見られる。『ザ・ビッグ・スウィッチ』の副題は「Rewiring the World, From Edison to Google」で、正にクラウドコンピューティングと電力産業をテーマにしたものだ。

 宇野氏の比喩は、まさにこのテーマに沿った内容だったといえよう。

 日本HP 執行役員 チーフ・テクノロジー・オフィサーの山口浩直氏は、情報セキュリティの観点から採用の背景を説明。「メールボックスのデータがどこのデータセンターにあるのかを指し示す必要があるが、ベンダーによってはそれができない。HPのサービスは、データがどこにあるのかを確約できるクラウドだ」と語っている。

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