経済環境が一段と厳しさを増し、多くの企業にかつてない閉そく感がまん延している。コスト削減は至上命題となり、IT投資も例外ではなくなった。しかしマイクロソフトは、コスト削減と同時に社員の生産性向上に照準を合わせた効率的なIT投資が必要と訴える。
コストの一律カットは誤り
Lehman Brothers破たん後の米国の不況が、猛烈な勢いで世界中に拡大している。もちろん、厳しい状況は日本も例外ではない。しかし、こうした不況に対する過去の状況を子細に見ると、日米で大きな違いがある。マイクロソフトの執行役常務でビジネス&マーケティング担当の佐分利 ユージン 裕氏はこう指摘する。
「1990年代に入り、日本はバブル崩壊とともに景気低迷に陥ったが、その間アメリカは成長し続けてきた。その理由は、ITの導入と活用の違いにある。今、多くの企業が景気低迷の中でコスト削減に取り組んでいるが、どのコストも一律カットする方法は正しくない」
佐分利氏は、内閣府の経済白書などのデータを元に、日米のIT投資の違いを説明。経済白書を見れば、日本のホワイトカラーの生産性は欧米の70%にとどまっているが、その最大の要因はITの導入と活用だと断言した。
「日米では特にITの活用方法が違う。日本は部門最適には積極的だが、企業内最適やサプライチェーンのような企業を超えた最適化はほとんど行われていない。日本は事業部制で、各部門に任せて事業を進める傾向が強いが、欧米はひとつの企業としてガバナンスを効かせて取り組む形が明らかに違う。またCIOという役職も、日本では全企業のうち約4%しか存在しておらず、しかもその3分の1は兼務の状態だ。そのため日本のIT部門は、企業の戦略に基づいてITをどのように活用するかというより、完全なコストセンターになってしまっているのだ」
このように厳しい経済環境だからこそ、ITを有効活用する必要があるというのが佐分利氏の提言である。
「経済環境が厳しくなればなるほど、ITの導入と活用が重要になってくる。コストを一律カットするのではなく、短期、中長期でバランスを取り、ITを戦略的に考えた投資が必要なのだ」
シフトするIT投資の重点分野
IT部門の関心事は、時代とともに推移している。J-SOX施行前後は、何といっても「コンプライアンス」と「セキュリティ」だった。それが一段落すると、「グリーンIT」が脚光を浴びた。
しかし今、IT部門の最大の関心事は「コストの削減」に移行している。内閣府が白書をまとめるにあたっても、企業のIT部門に「今、一番関心の高いものは何か」を聞き、その結果68%の企業がコスト削減だと回答した。まさに今の時代を反映した結果だ。