インターネットの世界では、技術の進化はとどまるところを知らない。これから先の10年、技術はどう進化し、エンジニアにはどういったことが求められるのだろうか。11月24日に楽天が10周年を記念して開催したイベント「楽天テクノロジーカンファレンス2007」において、代表取締役社長兼会長である三木谷浩史氏、楽天技術研究所フェローのまつもとゆきひろ氏、アドビ システムズ代表取締役であるギャレット・イルグ氏が議論した。
三木谷氏は経営者の視点から技術を捉え、「技術は、戦略、オペレーションとともに経営の基本軸になるもの。たとえばGoogleは技術と戦略を軸に規模を拡大してきた。ただ、それが強みでも弱みでもある。楽天はオペレーションを加えた3つをしっかりとやってきた」と話す。
次の10年はメディアや会員サービス、ビジネスアプリケーションを強化する。さらに、4000万人の会員データベースを構築し、パーソナライズドサービスを推進する。
サービス開発には社外エンジニアの協力もあおぐといい、「言われたことをやるだけでなく、自発的にアイデアを出して付加価値の高いものを作って欲しい」とした。
Rubyの開発者として知られるまつもと氏は、三木谷氏の発言を受けて「エンジニアは『技術、戦略、オペレーション』のトライアングルの中で、技術に注力し戦略に影響を与えていく立場」であるとした。また、この10年を振り返り、CPUパワーやストレージ容量、ネットワークの速度などは飛躍的に向上しているが、これらはあくまで量の変化であり、本質は変わっていないと指摘した。
まつもと氏はエンジニアに求められるものとして、「まず(ストレージの)大容量化、(機器の)小型化、そして低コスト化が進んでいく未来に、どのようなサービスを提供できるのかを考える想像力が必要になる。また、本質が変わっていないことを考えると、その本質を完全に自分のものにしておく基礎体力も必要。さらに英語力も必要でしょう」
ギャレット氏は、「インターネットが進化したことで、ユーザーは単純なインターフェース以外のものを求めている。それは感情や興味のもとなどであることに、開発者やエンジニア、サービスプロバイダーは気づく必要がある」と話す。
また、デザイナーと開発者が一緒になってきているという傾向も指摘した「これまではデザイナーがイメージしたコンセプトが開発者に渡される中で、多くのものが失われてきた」(ギャレット氏)。しかし、最近ではデザイナーが開発も行うようになり、開発者もデザインを重視するようになってきた。両者が一緒になることで、インタラクティブなサービスや、価値の高い体験といったものを提供していきたいという考えが加速し、それがインターネットを進化させる原動力になるとした。
エンジニアは何を目指すべきかという質問には「生産性が鍵になる。今は中国に頼めば、同じものが安くできちゃう。本来は、どこにもなかった新しいものを作り出す楽しい仕事のはずなのに、直接関係ない業務に時間を取られることが多い。楽しく、かつ生産性の高い仕事を目指すべきでしょう」とまつもと氏は話す。
三木谷氏は「エンジニアは新しい付加価値を生み出したり、今までできなかったことを実現できたりする。これからソフトウェアはどんどんオープンソース化され、世界に展開されていくことになる。そのためにも、先進的な考えとグローバルな視野が必要。そして高い志を持って、何をすべきかを知るためのアンテナの感度を上げていくことが大事でしょう」と話した。
また、ギャレット氏は「これからは、よりたくさんの人がエンジニアと呼ばれるようになる。競争が激しくなる反面、参加しやすくなるともいえる。技術に縛られる環境ではなくなっていくため、かえって腕の見せ所が増える。コストを下げることではなく、生産性を上げることを目指すべき。そのためには技術力はもちろん、創造力、人を巻き込む力といったものが重要になる」と指摘した。