TOMOYO Linuxの開発者たちは今、なにを想っているのか

富永恭子(ロビンソン)

2009-06-16 23:34

 前回の記事「開発者が振り返るTOMOYO Linuxのメインライン化」では、Linuxカーネル2.6.30に採用されたTOMOYO LinuxとNILFSのうち、TOMOYO Linuxのこれまでの歩みにスポットをあてた。

 今回は5000人を超す購読者を有するメーリングリスト、LKMLを舞台に繰り広げられたTOMOYOにまつわる話から始めよう。本稿の最後ではNTTデータの原田季栄氏、半田哲夫氏、武田健太郎氏、沼口大輔氏の「今」の声も紹介しよう。

変化することで活路を開く

武田健太郎氏 武田健太郎氏

 LKMLでの攻防が繰り返されていた2006年後期、武田健太郎氏が開発担当者としてプロジェクトメンバーに加わった。

 「TOMOYOはある種、『完成形』がメインライン提案前から存在しました。そのため、メインラインまでの道程は『完成形のTOMOYO』から『コミュニティに受け入れられるTOMOYO』への変化の過程となりました。前者の実装は自分たちの思い通りにできるけれども、後者には種々の制約があり、コミュニティを納得させるだけの理由が実装に必要でした」(武田氏)

 どういう変化を遂げれば「受け入れられるTOMOYO」になるのか、試行錯誤を繰り返す日々が続いた。

 「メール、掲示板、国際会議での説明と議論に加え、オフィスでの半田氏との激論の日々は、TOMOYOというソフトウェアの『ゆずれない部分』がどこにあるかを確認する日々でもあった」と武田氏はいう。

 2008年以降、半田氏はLinux Foundation Japan Symposiumや、Linux Conf AuなどでSELinuxの主要メンバーに直接会って説明するチャンスに恵まれ「遂にその事実を伝えることができた」という。

 そして、2009年6月、Linux標準カーネルの機能としてTOMOYO Linuxのコア部分が取り込まれた。

TOMOYOの隠れた貢献

原田季栄氏 原田季栄氏

 TOMOYO Linuxは、メインライン化への過程で、これまでの活動の履歴をこつこつと積み上げ、公開してきた。全ては後に続くプロジェクトや開発者のためのものだ。

 地道な作業ながら、Linuxカーネルへの道しるべとして、その「記録」がもたらす貢献度は大きい。

 「TOMOYO Linuxの取り組みを始めたとき、『これはオープンソースのプロジェクトなのだから、プログラムだけでなく、考えたことや経験も共有しよう』と思いました」と原田氏は語る。

 「論文発表、講演やオープンソースカンファレンスなどのイベント対応、メインライン化の提案など、取り組みのひとつひとつをはてなのキーワードに追加し、悩みや考えたことを、メーリングリストや掲示板に共有してきました。だからTOMOYO Linuxのあゆみは今も、そしてこれからも誰でも参照できます」(原田氏)

 それらが実際にどれだけ役に立っているかは確かめようもない。しかし、ひとつひとつの取り組みを大切にしてきたことと、「いつか誰かの役に立ちたい」と思い続けてきたその気持ちは、このプロジェクトの誇りだという。

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