前回の記事「開発者が振り返るTOMOYO Linuxのメインライン化」では、Linuxカーネル2.6.30に採用されたTOMOYO LinuxとNILFSのうち、TOMOYO Linuxのこれまでの歩みにスポットをあてた。
今回は5000人を超す購読者を有するメーリングリスト、LKMLを舞台に繰り広げられたTOMOYOにまつわる話から始めよう。本稿の最後ではNTTデータの原田季栄氏、半田哲夫氏、武田健太郎氏、沼口大輔氏の「今」の声も紹介しよう。
変化することで活路を開く
LKMLでの攻防が繰り返されていた2006年後期、武田健太郎氏が開発担当者としてプロジェクトメンバーに加わった。
「TOMOYOはある種、『完成形』がメインライン提案前から存在しました。そのため、メインラインまでの道程は『完成形のTOMOYO』から『コミュニティに受け入れられるTOMOYO』への変化の過程となりました。前者の実装は自分たちの思い通りにできるけれども、後者には種々の制約があり、コミュニティを納得させるだけの理由が実装に必要でした」(武田氏)
どういう変化を遂げれば「受け入れられるTOMOYO」になるのか、試行錯誤を繰り返す日々が続いた。
「メール、掲示板、国際会議での説明と議論に加え、オフィスでの半田氏との激論の日々は、TOMOYOというソフトウェアの『ゆずれない部分』がどこにあるかを確認する日々でもあった」と武田氏はいう。
2008年以降、半田氏はLinux Foundation Japan Symposiumや、Linux Conf AuなどでSELinuxの主要メンバーに直接会って説明するチャンスに恵まれ「遂にその事実を伝えることができた」という。
そして、2009年6月、Linux標準カーネルの機能としてTOMOYO Linuxのコア部分が取り込まれた。
TOMOYOの隠れた貢献
TOMOYO Linuxは、メインライン化への過程で、これまでの活動の履歴をこつこつと積み上げ、公開してきた。全ては後に続くプロジェクトや開発者のためのものだ。
地道な作業ながら、Linuxカーネルへの道しるべとして、その「記録」がもたらす貢献度は大きい。
「TOMOYO Linuxの取り組みを始めたとき、『これはオープンソースのプロジェクトなのだから、プログラムだけでなく、考えたことや経験も共有しよう』と思いました」と原田氏は語る。
「論文発表、講演やオープンソースカンファレンスなどのイベント対応、メインライン化の提案など、取り組みのひとつひとつをはてなのキーワードに追加し、悩みや考えたことを、メーリングリストや掲示板に共有してきました。だからTOMOYO Linuxのあゆみは今も、そしてこれからも誰でも参照できます」(原田氏)
それらが実際にどれだけ役に立っているかは確かめようもない。しかし、ひとつひとつの取り組みを大切にしてきたことと、「いつか誰かの役に立ちたい」と思い続けてきたその気持ちは、このプロジェクトの誇りだという。