先週行われた会見のなかで、最も注目を集めたのが、7月23日に開催された、富士通社長の野副州旦氏が行った経営方針説明会だろう。
決算発表前という微妙なタイミングであることから、数値の詳細などは当初から期待できなかったものの、本音に近い野副社長のコメントが相次いだのと同時に、野副社長の強いリーダーシップによる経営改革が進んでいることを感じさせるものとなった。
「社長からの説明を30分間、質疑応答を30分間」という当初示された会見スケジュールは大幅に狂い、「説明50分、質疑応答45分」という長丁場になった。野副氏による経営方針説明会では、過去にも同じ状況が繰り返されていただけに、参加している記者も、大幅な時間超過は折り込み済み。野副氏も「時間を超過していますが」と何度も言いながら、語るペースをまったく変えない。まさに確信犯だ。
経営方針説明会のなかで、野副氏が発した言葉からは、自らが経営改革を推進していることを強く感じさせるものが相次いだ。
「HDD事業の譲渡は、自分自身が交渉の場に立ったものであり、自分の言葉で語れる構造改革である」
「ユーディナデバイスの株式譲渡は、設立した5年前に、私と住友電工の松本正義社長との間で約束した内容を実行したもの」
「富士通ビジネスシステム(FJB)を完全子会社化したのは、ミニ富士通化しており、中堅・中小企業に特化した販売会社としての役割だけではなくなっていたため。また、私以外からは数字をあげることばかりが求められていた」
「富士通エフサスや富士通FIPは、富士通との事業の重複部分もあったために、経営層を入れ替えて中身を刷新した」
こうした発言で、社長自身が中核的な役割を果たした事業再編であることを示した。
また、本音ともいえるコメントも端々に見られた。
「私の親戚がFJBに入社したが、社長が次々と代わり、そのたびに方針が変わるので辞めたという。FJBを辞めてヤフーにいった社員が何人もいる」
「福島駅に着くと、支店長が迎えにきて、応接室で地銀のトップと会うときには、支店長は退席し、東京の技術者が同席する。顧客にしてみれば、なぜ歩いてすぐのところに拠点があるのに、対応は東京からなのかという疑問が残り、安心して任せられないのではないか」
「業種軸に体制を移行させた成果はまだ20〜30点」
「PCや携帯電話は顧客との接点となる商品であり、赤字にならず、2〜3%の利益が出ればいいと思っている」
など……。
そして、「海外事業を担当するグローバルCEOの1人が私に面談にきて、いろいろと事情を説明したが、私に何を言っても仕方がないと言った。海外事業のすべてはRichard Christouに任せている。良いも、悪いも、すべてCristouが判断する」と言い切ったという逸話も披露しつつ、「こうしてグローバルモデルを徹底してやっているのはいいのだが、海外で私にゴマをする人がいなくなのは、寂しい限りでもある」と、本音か、そうでないの分からないコメントも続く。
慎重な発言に終始することが多い経営トップのなかでは、異例のコメントが相次いだ会見となった。
さらに、中期経営計画の最終年度となる2011年度に、売上高は5兆円を目標とするほか、営業利益は2500億円当期純利益1300億円といずれも過去最高益を目指す目標を示しながら、「この数字は忘れてほしい」と、驚くべきコメント。
「過去最高の利益を目指すということ、そして、その時には最低でもこのぐらいの売上高を達成したい、という目標であり、財務から数字が必要だと言われ、仕方なく置いただけのもの」とした。
「中期経営目標の数値を忘れてくれ」というのも、やはり異例だ。しかも、それが経営方針説明の場であり、むしろ、新聞記事の上では見出しになるべき数字のことなのだから、あぜんとした新聞記者も多かっただろう。
だが、野副氏が、きっぱりとした言葉でこだわりを見せたのが、2009年度の最終利益の確保だ。「2年連続での最終赤字には絶対にしない。黒字化する」と、力強い言葉で繰り返し語ったのが印象的だ。
構造改革の成果などを1年で推し量るのは早計だが、野副氏は、自らの舵取りの評価を今年度末に置いた。しかも、営業利益ではなく、構造改革などを盛り込んだ最終利益という点がポイントだ。自らの通信簿は、通期業績として、来年4月にも公表されることになる。
早い結果を自らに課すという点でも、社長である野副氏の強い意志を感じた会見だった。